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新開発ソールを搭載した超長距離モデルの新商品〈JACKALジャッカル

RECOMMEND ITEM : JACKAL

はじめに

「記念すべき第1弾!」と元気よく、この”FOR OUR MOUNTAIN”のスタートを切りたいところでしたが、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響による外出自粛中の初回リリースとなりました。

一日でも早く新型コロナウイルス感染症の終息を迎え、自然の空気を存分に愉しむことができる日が来ることを祈るとともに、この度の新型コロナウィルスに感染および付随する被害にあわれた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

LA SPORTIVAの本社オフィスや工場、そして開発センターは、北イタリアのドロミテ山麓にある『Val di Fiemme』という地域にありますが、報道にもありますようにイタリアにおいても新型コロナウイルスによる社会生活への影響は大きく、医療現場を含め未だ予断を許さない状況であるとのことです。

昨年、その本社工場を訪問する機会があり、90年以上続くアウトドアブランドの伝統と革新の一端に触れることができました。静かな山間の町の一画に、本社オフィスや工場、開発センターが纏まって建てられていて、そこで働く従業員の多くは代々その町の周辺に住む人たちであるそうです。

一通り本社の見学を終えた時に、アテンドしてくれた社員が本社の屋上から見える町の風景を指差して、「LA SPORTIVAがこの地にあることが、この谷に住むLA SPORTIVAファミリーを守ることになり、そのファミリーがいるからLA SPORTIVAブランドが続けられている」と言っていたのが、とても印象的でした。

今後、定期的にリリースしていく、この“FOR OUR MOUNTAIN”の中でも、LA SPORTIVAのオリジンが詰まった北イタリアの自然や街のことや、その地域で育まれたブランドストーリーなどを、少しずつ紹介していければと思っています。また、全国のスポルティバ取扱店にて現在配布中の「LA SPORTIVA MAGAZINE Vol.01」にも、昨年撮影した工場の写真などが一部掲載されていますので、機会があれば是非ご覧ください。

2020シーズン最注目のトレイルランニングシューズ

アウトドアスポーツを楽しむには良い季節になりましたが、未だ新型コロナウイルスによる影響は当分続くことが予想されます。閉塞感が大きい日々が続きますが、野外に出てカラダを存分に動かせる日が来ることを願い、希望を胸に抱きながら2020シーズンの新製品をご紹介していきたいと思います。

今回ご紹介するのは、トレイルランニングシューズの新製品〈JACKAL(ジャッカル)〉です。
〈JACKAL〉は、昨シーズンにリリースされた〈KAPTIVA(カプティヴァ)〉をベースに、スポルティバの開発チームとアスリートチームのコラボレーションによって、開発・設計が進められたモデルです。ここ数年、スポルティバの長距離向けシューズの代表格と言えば、〈AKASHA(アカシャ)〉ですが、そのクッション性や安定性をベンチマークしながら、アスリートからの細部に渡るフィードバックコメントに耳を傾け、新たな概念により、この〈JACKAL〉が誕生しました。

TEAM LA SPORTIVAのトレイルランナーでウルトラロングディスタンスを代表するアスリートといえば、Anton Krupicka(アントン・クルピチカ)でしょう。世界最大級のアウトドアスポーツの見本市「ISPO 2019」のスポルティバブースや、本国のWEBサイトでも〈JACKAL〉のプロモーションにはAnton Krupickaがキービジュアルとして使われています。この〈JACKAL〉に関しても勿論ですが、スポルティバのシューズやウエアなどの開発において、彼ら契約アスリートからのフィードバックも取り入れながら製品が完成します。

Anton Krupickaのスペシャルサイト:
https://www.lasportiva.com/en/antonkcanvas

Youtubeで視聴する 

では、詳細の説明に入る前に、まずはこのオフィシャルムービーをご覧ください。

開発メンバーのコメントにもあるように、長距離を走りきるためにアスリートが求めたのは「安定性と衝撃吸収性の高さ」そして、その性能を満たした上での「軽さの追求」でした。ムービーの中で、それを「・・the biggest challenge」と形容している通り、これまでのスポルティバのトレイルランニングシューズのラインアップには無い新たなソールの開発から、この〈JACKAL〉プロジェクトが始まりました。

“ULTRA LONG DISTANCE”仕様のミッドソールとして開発された2世代目「INFINITOO™」

その新型ソールは「INFINITOO™(インフィニトゥ)」と呼ばれ、これまでの「INJECTED(射出成形EVA)」や「COMPRESSION(圧縮成形EVA)」とは全く違う、新たな概念で構成されています。

「INFINITOO™」が初めて搭載されたのは、約2年前にリリースされた〈UNIKA(ユニカ)〉(上画像)でした。そこで培ったテクノロジーを、アッパーやアウトソールを含めて“ULTRA LONG DISTANCE”仕様として昇華させたのが、この〈JACKAL〉に組み込まれた2世代目の「INFINITOO™」ミッドソールです。

それでは、「INFINITOO™」を搭載した新型ソールについて、もう少し詳しく見ていきましょう。ソール部分を構成要素ごとに分解すると、上図の(A)~(E)のようなパーツに分かれます。その基礎土台となるのが、クッション性の高いEVA素材で作られた(B)で、そこに埋め込まれた(A)のポリウレタンパッドにより、高いクッション性と反発力を生み出しています。

踵から土踏まずにかけての外周は、 (C)で描かれている硬度が高いEVAパーツで覆われていて、着地した瞬間の足首の横ブレを抑える役割を担っています。

トレイルランニングにおいて、足首の横ブレを抑えることは、着地エネルギーを反発力に変換するための重要なポイントです。レースの際に多くのトレイルランナーが足首に巻いている「New-HALE® X-TAPE」も、着地の際の横ブレを制御してエネルギーロスを減らす役割を担っています。

タイヤの空気が抜けた自転車を漕ごうとすると重く感じるのは、タイヤと地面の接点に横ブレが生じ、前に進もうとするエネルギーをロスしているからであり、それと同じことが足首にも当てはまります。

そのエネルギーロスが「長距離=長時間」となれば、当然体力の消耗にも繋がっていきます。特にトレイルランニングのような不整地で行われるスポーツおいては、身体に蓄積されたエネルギーの効率的な運用を考えても、足首の横ブレを最小化する必要があると言えるでしょう。

では、話題を〈JACKAL〉のミッドソール構造に戻します。

先に説明した(A)+(B)+(C)のクッション系素材の底部には、(D)の高密度で硬い「ロックシールド」プレートが一体成形されています。その名の通り、岩などの凹凸による突き上げから足を保護するとともに、ソールのねじれを防ぐ役割も担っています。

「INFINITOO™」ミッドソールは、これらの異なる特性をもつ(A)〜(D)のパーツを組み合わせることにより、地面から受ける衝撃を吸収し、その反発力から生まれるエネルギーを推進力として効率的に変換する仕組みを形成しています。

「LUG HEIGHT 3.5mm」に騙されてはいけない新開発アウトソール

それではミッドソールに続き、(E)のアウトソールに関して、いくつか特徴をご紹介していきたいと思います。

スポルティバのトレイルランニングシューズのソールを見て頂くと、「X」の刻印が見つけられると思います。これはアウトソールに使われているコンパウンド=ゴムの粘性の違いを識別するための印で「FRIXIONシステム」と呼ばれています。

「FRIXIONシステム」には、シューズの用途によってグリップ性と耐摩耗性が異なる5種類のパターンがあります。現在、トレイルランニングシューズに使用されているのは、その中の「FRIXION® BLUE / FRIXION® RED / FRIXION® WHITE」の3種類です。

〈JACKAL〉に採用されているのは、グリップ性(図中:G=6.7)と耐摩耗性(図中:HW=6.7)のバランスが平均的な「FRIXION® RED」で、密度(硬さ)が違う2種類のコンパウンドが使用されているのが特徴です。

同じトレイルランニングシューズでも、〈LYCAN Ⅱ〉のソールには青いXのマークが刻印されているので、アウトソールの種類は「FRIXION® BLUE」ということになります。
「FRIXION® RED」と比べると、グリップ性を示す数値(図中:G=5.6)は低く(=粘性が少ない)、その代わりに耐摩耗性の数値(図中:HW=7.1)が高いことがわかります。

では、〈JACKAL〉の「FRIXION® RED」ソールを具体的に見ていきましょう。

硬さが異なる2種類のコンパウンドの範囲は、ソール色で見分けることができます。黄色い部分は、前に説明した(D)の「ロックシールド」がそのまま露出しています。(E)の赤い部分は、耐摩耗性に優れたコンパウンド(=相対的に硬い)を使用していて、平地や上りなどで地面を捉えるためのスパイクの役割を担っています。残りの黒い部分は、より粘性の高いコンパウンド(=相対的に軟らかい)を使用しているため、特に下りや滑りやすい路面におけるグリップ効果を発揮します。

さらにマニアックな内容になりますが、せっかくの機会なので「IMPACT BRAKE SYSTEM(インパクトブレーキシステム)」についても、ここで触れておきましょう。

「IMPACT BRAKE SYSTEM」はトレイルランニングシューズに限らず、スポルティバの登山靴やアプローチシューズにも共通して採用している独自のラグ(ソールの凸凹)の形状と、配列パターンです。ラグの接地部分を斜めにカットし、それらを互い違いにレイアウトすることによって、登りでの駆動力、下りでのブレーキ、そして着地時の衝撃吸収を物理的に効かせる仕組みです。

トレイルランニングシューズに限らず、「スポルティバの靴はソールのグリップが良い!」と耳にすることがありますが、この「IMPACT BRAKE SYSTEM」がそれを下支えしていると言っても過言ではありません。また、「IMPACT BRAKE SYSTEM」も、シューズの種類や用途によって形状や配列は様々で、ブレーキの強さや衝撃吸収の度合いもそれぞれ異なります。そういったことも頭に入れてソールを見ながら路面との関係性を想像していただくと、“山道具としての靴選び”が一層楽しくなると思います。

新開発のソールに関して、最後にもう1点「ラグの高さ」に関するギミックをお伝えします。

上図表を見ると〈JACKAL〉のLUG HEIGHT(ラグの高さ)は「3.5mm」となっていて、トレイルランニングシューズのラインアップの中で2番目に低い数値になっています・・がしかし、〈JACKAL〉の場合には、単にこの3.5mmという数値に目を奪われてはいけません。そこで注目して欲しいのは、ラグの「付け根の溝」です。

前足部にフォーカスして、もう少し近寄って見てみましょう。

赤色のラグの後ろ(踵)側と、黒色のラグの前後に、それぞれ約3mmの深さの凹んだ溝が掘られているのが分かりますでしょうか。路面が軟らかいトレイル上では、その溝に泥や土が入り込むため、実質的なラグの高さは、カタログスペック上のLUG HEIGHT 3.5mm+溝の深さ3mm、すなわちラグとして機能する寸法としては6.5mmと言えます。

そこで、改めてトレイルランニングシューズ全ラインアップのLUG HEIGHT一覧表を見てみましょう。LUG HEIGHTが公称値6.5mmの製品をアウトソールの分類表でピックアップ(緑色で塗った部分)してみると・・何とそれらのシューズは全て「MUD GROUNDS」向きのソールとしてカテゴライズされていることがわかります。

ここまでの情報を重ね合わせて見えてくることは、一体何でしょうか。

それは、〈JACKAL〉のアウトソールのラグは、泥や土の軟らかい「MUD GROUNDS」環境においてはLUG HEIGHT6.5mmとして機能し、その他の硬い路面ではカタログスペック通りのLUG HEIGHT 3.5mmとして機能するということです。

長距離レースの長い道のりの中では、砂利の林道もあれば、森の中の軟らかい土や泥もあり、稜線に出て岩稜帯が出てきたと思えば雪渓や渡渉、そして雨が降ればヌルヌルの泥濘みになったり・・と路面状況が次々と変化していきますが、〈JACKAL〉のアウトソールは、その変化に追従してラグの高さをオートマチックに変容させているという言い方もできます。

また、エイドステーションの前後は、アスファルトや石畳などの街路を走ることも少なくありません。全体通して累積してみれば、それが10km以上になることもあります。そういった硬い舗装路や林道では、LUG HEIGHTが高いと物理的な抵抗になってしまうため、逆に3.5mmで必要十分なわけです。

長距離レース向けの人気モデル〈AKASHA〉との比較

「続いて、アッパーの説明に・・」と、行きたいところですが・・

現在〈AKASHA〉を履いている方、そしてこれから長距離レース向けにシューズの購入を検討される方は、「〈AKASHA〉と比べてどう違うの?」という事を知りたいと思いますので、スペック上の差分を交えながら〈JACKAL〉と同時に履き比べて感じた違いについて、少しコメントしておきます。

〈AKASHA〉は、スポルティバのトレイルランニングシューズの中でも〈JACKAL〉と同じく「ウルトラロング」対応として位置づけられているモデルです。日本海側の富山湾から日本アルプスを縦走して太平洋側の駿河湾に至る約415キロを駆け抜ける過酷で壮大な山岳レース『トランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)』において、チーム・スポルティバの望月将悟選手も、この〈AKASHA〉を使用しています。発売から何年も経った現在でも、100km、100mile級のウルトラトレイルに出場する多くの方々に選ばれる不動の人気モデルです。

LA SPORTIVAが2019年大会からタイトルスポンサーとなった、北イタリアのドロミテ周辺の山々を巡る120kmのウルトラトレイルレース 『Lavaredo Ultra Trail』で、私も〈AKASHA〉を使用しました。写真にあるようなガレ場や林道など、硬い路面がとにかく多いレースなのですが、〈AKASHA〉の高いクッション性に助けられ、ユネスコの世界遺産(自然遺産)にも登録されているドロミテ山塊の絶景を、最後まで堪能することができました。

では、〈AKASHA〉のソールに関する公称値から見てみましょう。

上図から読み取れるように〈AKASHA〉のソールは〈JACKAL〉と比べて、前足部(FOREFOOT)から踵(HEEL)にかけてのソールの厚みが+5〜6mmとなっていて、全ラインアップの数値を眺めても分かりますが、スポルティバの中で最も厚底なシューズであると言えます。

そのスペックの違いを踏まえた上で、〈AKASHA〉と〈JACKAL〉を同時に履き、トレイルを長時間走ってみて、どのような体感の差が生じるかを確認してみました。

結果は・・足裏で明確に差を感じるくらい「違います」。その中でも顕著に違いを感じた2点を、以下に挙げておきます。

1点目は、着地の次の瞬間に感じる前足部周辺の反発力が〈JACKAL〉の方が明らかに大きいことです。ボヨンボヨンと跳ねる感じではなく、特に土踏まずから母指球にかけての範囲が低反発枕に頭を沈めた時のようにギュッと優しく沈み込んで、その後ポンッと優しく押し戻してくれるイメージです。

数値の上では〈AKASHA〉の前足部(FOREFOOT)のソール厚の方が〈JACKAL〉よりも6mmも厚いのですが、体感上のクッション性はその数値が反転しているかのような感触なのです。そこで、〈JACKAL〉にあって〈AKASHA〉に無い構造上の大きな違いを考えると、それは(A)のポリウレタンパッドの有無であるため、間違いなくそれが機能していると言うことになります。

2点目は、前足部の「突き上げ」が〈JACKAL〉の方が小さいことです。岩場など凹凸が大きい路面を走ると、その差を明確に感じることができます。岩の尖った部分にソールを押し付けて体重をかけてみると、特に母指球から指の付け根にかけて、突き上げ感に差があることが分かります。

シューズの構造上、爪先に近くなるほどミッドソールのクッション厚は必然的に薄くなるため、路面の凹凸を感じやすくはなりますが、〈JACKAL〉は(D)の「ロックシールド」プレートが爪先まで入っているので、路面から受ける「点」のストレスを「面」で分散することができるのです。

また、「IMPACT BRAKE SYSTEM」によるグリップと衝撃吸収の仕組みは前に記載した通りですが、ラグパターンを比較しても、〈JACKAL〉の方がラグパターンの密度が高く、衝撃吸収の効果が高いことが見て取れます。

このように、この2モデルを比較して記載すると、〈JACKAL〉の方が優れているように思われてしまいますが、〈JACKAL〉を開発する際に〈AKASHA〉をベンチマークし、それを超える設計を行っているため、アドバンテージが高いことは必然ではあります。ただし、全ての人が〈JACKAL〉を買えば良いのかと言えば、そうでは無く、特にソールに関しては一長一短もあるため、また別の機会にでも望月将悟選手のインプレッションも含めて掲載したいと思います。

足のボリューム変化に追従する伸縮アッパー

ソールの話題は一旦ここまでとし、アッパーにフォーカスを移していきましょう。

まず〈JACKAL〉のアッパーに関して特筆すべきは、足入れした瞬間に感じる「履き心地の良さ」です。その「履き心地」を紐解いて整理すると、3つのポイントに絞られます。

まず1点目は、シューズのタンからつま先方向にかけてソックスの先端のような一体型の袋形状になっていることです。特に足の甲を包み込むように覆っている面には、ポリウレタン弾性繊維の「ライクラ®ファイバー」が使用されていて、足の形状に合わせてしなやかにフィットします。ライクラ®ファイバーは、生地に伸縮性と回復性を与える素材で、引っ張ると元の長さの4~7倍にまで伸び、力を緩めればまたすぐに元に戻ります。ランニング用のタイツをはじめ、動きのパフォーマンスを求められるスポーツウエアなどにも多く採用されている機能性素材です。

「長時間走っている間に浮腫み、ボリュームが変化する前足部から甲にかけて余裕をもたせたい」というアスリートチームからの要望に対する解が、この伸縮するアッパー構造にあります。その伸縮効果を高めるために、タンのクッション範囲(=伸縮性が少ない面積)は必要最低限の面積にし、シューレースも〈AKASHA〉に使用している仕様と同じ、伸縮性のあるものを採用することによって、しっかり紐を締め上げた状態でも、足のボリュームの変化にアッパーが伸縮して追従します。

2点目は、踵周りのクッションのボリュームが薄くなったことです。上写真を見ても一目瞭然ですが、クッションの厚みが半分くらいになっています。普段〈AKASHA〉を履いている方であれば、〈JACKAL〉を履いた瞬間に「あ、何か違う!」と、気がつくレベルの差を感じるはずです。

「こんなにクッションを薄くして、ヒールカップ周りのフィット感は大丈夫なの?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、実際に長時間履いて走っても、特に違和感や痛みなどを感じることはありませんでした。〈JACKAL〉は甲周りを伸縮性のある素材で包むことによって、紐を締め上げるとアッパー全体が足をラップするように持ち上がり、足の形状に沿って密着させ、フィット感を高めています。これは言葉で表現しきれないポイントでもありますので、是非、足を通して体感いただきたいと思います。

そして最後となる3点目は、足入れ部周辺に使用しているファブリックの種類が全く違うということです。〈AKASHA〉の足入れ部に使われているのは、スポルティバのトレイルランニングシューズでも一般的なクッション入りのメッシュ生地ですが、〈JACKAL〉では「マイクロファイバー」が使われています。マイクロファイバーとは、ナイロンやポリエステルを原料とする合成繊維の一種で、「マイクロ」と言うだけあって、繊維の細さに特徴があります。使用されている繊維は、何と8マイクロナノメートル以下という極細で、髪の毛の100分の1以下しかありません。

一般的には繊維は細いほど柔らかく、吸水性や速乾性も高まりますが、マイクロファイバーは、ただ細いだけではなく、繊維1本1本の断面形状が多角形で表面が凸凹になっているため、細かいホコリやチリを絡め取りやすいという特徴があります。それを活かした身近な製品として、メガネやレンズを拭くための布があります。その摩擦特性が高い素材を足首周辺の内側に採用することによって、足首周りのフィット感を高めています。

長距離レースでは、降雨以外に、渡渉や雪渓、ぬかるみなど靴全体が濡れる場面が多々あります。また、天気は晴れていたとしても、『Lavaredo Ultra Trail』がそうであるように、上写真にあるような渡渉が頻繁にあれば、シューズとソックスは濡れた状態という時間が長く続くこともあります。

〈AKASHA〉などのメッシュを多用しているシューズは、水を吸収する体積が大きいため、グッショリと濡れて重量が増す感覚が続きますが、〈JACKAL〉のアッパー素材は薄いので、物理的に保水する体積が少なく、濡れていると言う不快感が少ないのが特徴です。マイクロファイバー素材は、アウトドア用の速乾タオル生地にも使われていますが、高い吸水性と速乾性があるため、厚いメッシュ生地に比べると相対的には早く乾くことにもなります。

また、シューズの側面に空けられたメッシュ小窓は、内部の熱を放出するベンチレーションとしての役割だけでなく、シューズ内部やソックスに浸み込んだ水の排水も積極的に行います。

メッシュ窓がこれだけ開口率が高いと、アッパーの耐久性の方が不安になるかもしれませんが、それはご心配なく。身近なものに例えると、網戸に使われているような硬めのナイロンメッシュの目をさらに細かくした素材感で、岩などに擦っても簡単には裂けることはない強度を持ち合わせています。また、その網目自体が極めてフラットで目が細かいので、枝などが引っ掛かってメッシュを損傷するということも少なそうです。

スポルティバのシューズは幅が狭い??

ここまで〈JACKAL〉について、かなり細かく掘り下げてきましたが、いかがだったでしょうか。パッと見の外観は、比較的シンプルなトレイルランニングシューズといった印象ですが、このように解説を交えて見ていくと、様々なギミックが詰め込まれた製品であることが分かって頂けたかと思います。

足のサイズや足型はもちろん、走り方や足裏感覚そして体重など、人によって千差万別ですので一概にシューズを履いた時の「心地よさ」を言い切ることは難しく、個人的見解になる部分も多々含んでいますが、シューズ選びをする上で、少しでも皆さまのお役に立つ情報となれば幸いです。

では、最後に〈JACKAL〉のフィッティングに関するお話をして、締め括りたいと思います。

「スポルティバの靴はイタリアのブランドだから、足幅が狭そう」ということを聞くことがあります。なぜか「イタリアの靴=幅が狭い」という既成概念があるのかもしれませんが、少なくともスポルティバのシューズが全体的に幅狭ということはありません。

スポルティバの「トレイルランニング」カテゴリーのシューズに関しては、全てのラインアップを同じ足型で作っているわけではなく、それぞれの製品の想定対応距離の長短によって、設計の段階で足型のボリュームを変えています。具体的には、長距離向きのシューズは「HIGH VOLUME(ハイボリューム)」設定が多く、中・短距離向きのシューズは「NORMAL VOLUME(ノーマルボリューム)」設定が多い傾向が見られます。

それは、特に長距離レースであればあるほど、足への衝撃や疲労の蓄積により浮腫みが生じてくるので、特に爪先から甲にかけての前足部のボリュームに余裕がないと、足先が詰まった感じになってしまうからです。そのような理由からも、現在のラインアップの中で最も長い距離に対応するシューズとして位置づけられている〈JACKAL〉や〈AKASHA〉は、「HIGH VOLUME」設定の足型の中でも特に前足部に余裕を持った作りになっています。足幅が広かったり、甲高があって自分の足型に合うシューズがなかなか見つからないという方は、長距離レースには出なくても是非お試し頂ければと思います。

また、これはトレイルランニングシューズに限らずですが、シューレースの締め方やインソールを入れ替えることによっても、フィッティングに大きく影響しますので、その辺りのトピックスに関しては、今後機会を作ってお伝えできればと思っています。

おわりに

Youtubeで視聴する 

ちょうどいま、これを書き終えたと同時に、〈JACKAL〉の新たなプロモーションムービーがアップロードされたので、是非こちらもご覧ください。La Sportivaアスリート Anton Krupickaと、世界のウルトラトレイルレースで活躍中の女性ランナー Clare Gallagher(https://clare.run)のランニングシーンと共に、彼らの肉声で〈JACKAL〉について語られています。

冒頭でご紹介したムービーにもあったように、〈JACKAL〉の開発においては、特にアスリートチームと綿密なコミュニケーションを図り、シューズの設計に落とし込んでいったと言われています。ウルトラトレイルという長距離・長時間の活動をサポートするために、シューズに何が求められるのかを改めて問い直し、新たな素材や製法とともに生まれたフラッグシップシューズであることが、実際にトレイルを走ってみると足裏から伝わってきます。

ここまでの詳細解説により、「まだ長距離のトレイルランニングレースには出ない」という方には、〈JACKAL〉というシューズに対する敷居が高く感じてしまったかもしれませんが、決してエリートランナーだけに向けたシューズでは無いことも、ここでお伝えしておきます。片足あたり300g(サイズ42)と軽量で、ウルトラトレイルに耐えうる堅牢性や機能を兼ね揃えたこのシューズは、トレイルランニング以外にもハイキングやファストパッキングなど、軽快に登山を楽しみたい人に、これまでに無い心地よさを提供してくれるはずです。

“Innovation with passion”

これはLA SPORTIVAのロゴマークに添えられたブランドのキャッチコピーですが、まさにそのコトバが似合うトレイルランニングシューズだと思います。

[ 次回予告 ]

アウトドアアクティビティの枠を超えた要素技術のハイブリッドとも言える「アプローチシューズ」の新商品をご紹介したいと思います。「登山靴をそろそろ新調しようかな」と考えている方は、是非ご覧ください!

それでは、また次回お会いしましょう。ありがとうございました。

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FOR OUR MOUNTAINWRITTER

写真:一瀬圭介

<LA SPORTIVA アンバサダー>
一瀬 圭介 Keisuke Ichinose

プロマウンテンアスリート・山岳カメラマン。アラスカなど極北地帯の雪上を数百キロ進む超長距離バイクパッキングレースを中心に、ファットバイクによる競技活動を行う。また、山岳カメラマンとして国内外のアウトドアフィールドにおける映像制作なども手がける。2020年より福島県二本松市岳温泉にて「丘と山製作所」を立ち上げ、磐梯・吾妻・安達太良山域にてアウトドアアクティビティに関する事業も展開する。カリマーインターナショナル / ラ・スポルティバ アンバサダー

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