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[ノーエッジシリーズ]成瀬洋平×NO-EDGE in 小川山[前編]

OUTLINE

はじめに - ノーエッジとの邂逅

「岩と指先が近い!」

今年、新たにリリースされたノーエッジシューズ「マンダラ」を履いたときの衝撃は今でも忘れられない。

いつもより身体が岩に近い。爪先から強烈にフットホールドの存在を感じる。しかも足裏だけでなく指の側面(曲線部分)からも岩を感じるのだ。まるで素足に薄いラバーを巻きつけて登っているような感覚。岩との密着感が半端なく高い。これがノーエッジというものか。

初めて味わうその感覚は、登るにつれて大きな信頼感へと変わっていった。これまでノーエッジシューズを履いてこなかった自分だが、この感動を味わって以来、ノーエッジに対する信頼は絶大なものとなった。今では勝負靴のひとつとして常にバッグの中に入れている。

LA SPORTIVA社が初めてエッジのないクライミングシューズを世に送り出したのは、実は意外に古く、四半世紀前に遡る。1999年、最初に発売されたのはマントラで、現マントラの初代モデルである。その後、スピードスター、フューチュラ、ジーニアスがリリースされる。

しかし、ノーエッジシューズを愛用するのは一部のクライマーで、現在でも一般的に浸透しているとは言い難い。あくまで個人的な印象だが、海外のトップクライマーを見ても、バーバラ・ツァンガールがフューチュラを、ジェイムス・ピアソンがジーニアスを履いてヤバいトラッドルートを登っている記憶があるくらいである。

実は、私もフューチュラが発売された頃に履いたことがある。しかし、正直なところノーエッジの魅力をあまり感じることができず、リピートすることはなかった。

2024年、4つのノーエッジ最新モデル

オリンピックイヤーの2024年、ノーエッジシューズが4モデル発売された。マントラ、フューチュラ、ジーニアスはマイナーチェンジ、新たなシューズとしてマンダラが登場。どのシューズもアイボリーを基調にした統一性のあるデザインで、その斬新さが目を引く。

上からマントラ、フューチュラ、マンダラ、ジーニアス

左からマントラ、フューチュラ、マンダラ、ジーニアス

特にニューモデルのマンダラは発売時から大きな話題となっていて、私もマンダラを履いてみることにした。

「ノーエッジって、実際のところどうなんだろう?」

かつてフューチュラを履いた時の記憶が蘇る。そして訝しげな(?)気持ちを胸に、実際にマンダラを岩場で履いてみた時の衝撃が、冒頭の一文である。完全にノックアウト。以来、すっかりノーエッジ信者になってしまったというわけである。

この記事では、前編と後編に分けてノーエッジシューズの魅力をご紹介したい。前編ではノーエッジの概論を、後編では岩場でもおすすめしたい2モデルを取り上げ、実際の使用感を織り交ぜながらレビューする。

ノーエッジ概論

そもそも、ノーエッジとは何なのか。ブランドHPのテクノロジー欄 にはこのように解説されている。

「薄いラバーを足の輪郭に沿わせ、足全体をぴったりと覆う構造に。足の指と岩の距離を近づけ、繊細な足裏感覚をもたらし、パワーをダイレクトに伝えることが可能に。すべての条件下で足と岩が接触する面積を最大化し、高い密着性であらゆるコンディションに適応する」

通常のクライミングシューズ(以下「クラシックタイプ」と呼ぶ)はランドとソールが別れており、板状のソールがシューズ裏面に貼り付けてある。このため、ソールの外輪にはエッジが生まれる。

一方、ノーエッジタイプは爪先の曲線に沿うようにソールからランド、トゥへと、薄く同じ厚みの一枚のラバーで包まれるように覆われている。そのため外輪にエッジがない。結果、エッジ分の厚みがなくなり指と岩との距離が近くなる。

その距離の近さは理屈だけではなく、初めてマンダラを履いた時に強く感じることができたので、実際に大いに納得するところである。

わずか数ミリの差である。しかし、この数ミリの差で登り心地の違いをはっきりと感じることができる。クライミンググシューズとはいかに繊細なものであるかと思わずにはいられない。

解説イラストにもある通り、クラシックタイプだとソールの先端部分しか岩に接しないが、ノーエッジタイプは爪先の側面(曲線部分)も岩に接してくれる。それだけ接地面積が大きくなり、岩との密着度が高くなる。接地面積が増えれば滑りにくくなるのは物の道理。特にスメッジングをした時はその違いが顕著で、明らかにノーエッジの方が岩に密着していることがわかる。

特に外傾した小さなフットホールド(だいたい難しいルートではそのようなフットホールドが多くなる)では、この広い接地面積は非常に有効である。

ノーエッジの解説は「まさにその通り!」と実感でき、そのロジックが非常に的を得ていることがわかる。

ノーエッジタイプは全体的に柔らかめ

ノーエッジタイプに使われているソールは柔らかめのビブラムXSグリップ2。厚みは3.0mm(マントラは1.8mm!)である。ちなみに人気モデルのスクワマやソリューションは同ラバーの3.5mm。より薄いソールを採用することで足裏感覚を重視している。この足裏感覚の高さがノーエッジモデルの特徴である。薄く柔らかい爪先にすることでラバーが潰れて岩の形状に合わせて馴染んでくれる。これによって岩との密着性が高まり、極小エッジを含めてさまざまな形状のフットホールドに対応してくれるのだ。

左がジーニアス、右がマンダラ

ソールはセパレートになっていて、全体的にしなやかで柔軟性に富む。ノーエッジタイプの中ではマンダラとジーニアスが比較的剛性の高いモデルだが、全体のラインナップの中では柔らかいシューズと言える。

ノーエッジ特有のフットワーク

「大切なエッジがないなんて、本当に登りやすいのだろうか?」

多くのクライマーがそう考えているに違いない。私など、ソールが丸くなるとヤスリで削ってエッジを出していたほどである。

ノーエッジタイプでは、クラシックタイプとは少し違った足の置き方が求められる。この点が最大のミソなのだが、そのわかりにくさがノーエッジタイプが一般的に浸透しない最大の理由だろう。

大きなフットホールドに関しては違いがない。問題はフットホールドが小さくなった場合である。そもそもエッジがないので通常のエッジングはできない。ノーエッジタイプは、基本的にスメッジングのようにして、爪先を岩に押し当てるようにして使うとその効果を発揮する。具体的には、指先の曲線部分をフットホールドに合わせ、爪先を掻き込むようにして岩に強く押し付けていく。小さなフットホールドであってもラバーが潰れて岩に馴染むようにフィットし、接地面積が増え、押し付ける力と相まって強い力を岩に伝えることができる。

爪先を柔らかくしているのは、単に足裏感覚を高めるだけでなく、フットホールドにラバーが馴染みやすくするためでもあるのだろう。エッジがないと滑ってしまう気がするが、見事にその点を克服しているのである。その意味で、ノーエッジタイプはかなり汎用性が高いと言える。かつてフューチュラを履いた時に魅力を感じなかったのは、この使い方を知らなかったためである。

エッジがなくなったらノーエッジ?

「クラシックタイプでエッジがなくなってきたらノーエッジじゃないの?」

そう思うユーザーもいるだろう。しかしこれは全く違う。確かに、一皮剥けたシューズの方が使いやすいことは多いが、爪先と岩との距離はさほど縮まらないし、接地面積が大幅に増えるわけではない。局所的にソールが擦り減ると滑りやすくなる。ノーエッジは同じ厚みのラバーで指先を包み込むように覆っていることがポイントである。

ノーエッジのススメ

ノーエッジタイプはその使い方に特徴がある。最初は戸惑うかもしれないし、慣れるのに時間がかかるかもしれない。しかし、コツがわかってくればその有効性を実感できるのではないだろうか。

まだノーエッジタイプを履いたことがない方はもちろん、過去にノーエッジタイプを履いてみたがイマイチだったと言う方にも、もう一度改めて試していただきたい。私がノックアウトされたように、きっとノーエッジに魅了されるに違いない。

WRITTER

LA SPORTIVAアンバサダー

成瀬 洋平 Yohei Naruse

1982年岐阜県生まれ、在住。
幼少の頃から登山に親しみ、山を歩いて見聞きしたことを絵と文章で描くことをライフワークとする。
故郷の山村に自作したアトリエ小屋を拠点に創作活動を行い、雑誌などに執筆する他、各地で展覧会や水彩画教室を開催。
中学生でフリークライミングを始め、恵那・笠置山ほか地元の岩場で開拓、フリークライミングの普及に努める。
2017年より、日本山岳ガイド協会公認フリークライミングインストラクターとして「成瀬クライミング スクール」を主催。
芸術とクライミングの交差点であるクライミングアートを模索している。
2023年、Green spit(8b)イタリア、オルコ渓谷