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私がエクイリビウムを手に取ったのは最近のことだ。しかし、以前からその存在はよく知っていた。ここ数年夏の北アルプス等でエクイリビウムを履いている登山者をかなりの頻度で見かけていたからだ。
また、登山ガイドの方々もよく履いている印象だ。人気のあるシューズであることは間違いないと感じていた。紐の色が左右で異なっていたりソールが今までになく大きなブロックがついていたりと見た目のデザインが独特で印象に残っていた部分もある。
ただ私はトランゴタワーを持っていたこともあり、私自身が履く機会はなかなか訪れなかった。
今回、海外での長期使用予定があり初めてエクイリビウムを手に取ることになった。
私は、ここ数年山岳撮影に関わる仕事が多くなっている。山岳関係のテレビ番組の撮影や歩荷を行うことが多く、エリアは国内外を問わず様々な場所に出向いている。
初めて訪れる場所になることも多々ある。何回も訪れたことのある場所に行く際はそれほど装備の選択に困ることはない。シューズも軽量なもの、しっかりしたものどちらを使うかは現地に行かなくても判断ができる。
しかしながら、仕事で初めてのエリアましてや海外でのエリアとなるとどのシューズを持っていくか非常に迷うものである。どんな状況でも動けるように、機動力があり尚且つ現地で悪い環境になったとしても安心して使えるということが重要になってくる。
程よい軽さと、それなりの堅牢さのあるシューズが必要になる場面は多い。プライベートの登山においてはそこまで細かく考えて履くことは少ないが仕事となるとなるべく良いものを履きたい。
仕事を楽するつもりはないのだが、装備面では楽をしたいのである。今回海外での新しい仕事ということでエクイリビウムを導入した。
色々とバタバタしてしまいシューズの慣らしはできずに赴くことになった。どんな風に足に馴染んでいくのか、使い勝手はどうなのか私なりに感じたことをまとめていきたいと思う。
富士山の標高を超える環境でも頼れる一足
エクイリビウムをまず履くことになったのはネパールだった。
市街からヒマラヤ山脈の麓への移動はほとんどトレイルランニングシューズで問題なく、いよいよ山へ入り高所への順応をするというところからエクイリビウムに切り替えた。標高は3,000〜4,000mほどだ。
今回履き慣らしが全くできなかったので、歩き出し初日は少し足首周りの硬さを感じた。
10kmほどの行程をこなすとすねのあたりが硬い部分に少し当たっている感じだった。ハイカットのシューズは馴染むのに少し時間がかかる。
宿に着くとシューズの足首周りを入念にほぐした。履き初めに比べるとだいぶしなやかさがでてきた。
翌日は宿からさらに登る行程だった。標高も5,500m近くになる。前日当たっていた部分が気になるところだったが、1日でかなり馴染んできていて気にならないくらいになった。
足に合わなかったらと心配していたのだが、そこは大丈夫そうだ。時々新しいシューズを履いて初日で足に合わないと判断してしまう人を見るが、シューズにもやはり慣らし期間は必要だ。特に堅牢なシューズになればなるほど慣らすのに時間をかけた方がいい。
いきなり本番使用している私が言えたことではないが、紐の締め具合やフィット感は歩くことで調整されていく。しっかり吟味したシューズであれば、すぐに判断するのではなく、時間をかけて馴染ませて欲しいと思う。
馴染む時間は堅牢なシューズになればなるほど時間がかかる印象だ。そういった意味では、エクイリビウムはスリーシーズンシューズの中でも馴染むのがかなり速い部類になると思う。
軽量化に合わせてしなやかさもプラスされたのではないだろうか。
初めはこまめに締め具合を調整する
順応登山を終えると一旦麓の村へ降り休息を取ったのちベースキャンプ入りとなった。今回、ベースキャンプが作られたのは標高約4,100m地点の放牧エリアとなった。
放牧エリアというと簡単に行けそうな場所に感じるかもしれないが、富士山山頂よりも高い場所で酸素も薄く特に整備された場所でもない。
高所でも活動できるヤクたちの放牧エリアであり、自然のままの高原地帯という感じだ。基本的にベースキャンプから離れることは少ないが、高所であることは変わりない。
夏の富士山でも気温が一桁になるように、標高が高くなれば当然気温は低くなる。ベースキャンプでも朝晩は気温0℃を下回った。冬靴とまではいかないがしっかりとしたシューズが欲しくなる気温である。
また、日中は太陽が出れば気温はぐんぐん上がっていく。高所では昼と夜の気温差が激しい。それは地域や標高でも多少左右されるが、初めて赴くエリアであればそれは想定しなければならない。
過酷な環境ではないとしてもスリーシーズンモデルのシューズが安心と言えるだろう。
また、ヒマラヤのように長期の遠征で滞在期間が長い場合は、季節が日に日に進んでいくことも考慮しなければならない。暑い時期に入山していたとしても、後半では冬の気配を感じるということもあり、ベースキャンプ生活では幅広い環境における汎用性が重要になってくる。
そういった意味ではスリーシーズンシューズであるエクイリビウムはベースキャンプでの生活にはもってこいのシューズだった。
また、ヒマラヤ登山は登山道が必ずしもあるわけではない。放牧のための道はあるにしても、基本的にベースキャンプより上は道がないことの方が多い。整備された道ではなく、自分でルートを見出しながら不整地を進んでいくことになる。足元も不安定なことの方が多い。ゴロゴロとしたがれ場や、草が生い茂り滑りやすい斜面。そういった場所では堅牢性が大事になる。
ヒマラヤの特にベースキャンプより上のエリアではトレイルランニングシューズよりもハイカットのスリーシーズンモデルが適していると言えるだろう。トレイルランニングシューズほどの走りやすさはないが、それ以外の点に置いては、訪れたことのない未知の場所での使用を考えた時エクイリビウムがベストな選択のように思える。
スリーシーズンモデルならなんでもいいのでは?と思うとは思うのだが、よりベストな選択として私はエクイリビウムを推したいと思う。では、これまでのスリーシーズンモデルとエクイリビウムの違いは何があるのだろうか?そこを探っていきたいと思う。
日本アルプスの岩稜のようながれ場
エクイリビウムを履いてみて、これまでのモデルと比べて際立つ違いは何か、それを考えた時まず一番に思いつくのは圧倒的な軽さだ。オーソドックスなスリーシーズンのハイカットモデルと比べるとかなり軽量だ。
重量は約630gとなっているのだが、この数字には驚かされた。それは私が以前履いていたスリーシーズンの靴が1kg超えだったからだ。
エクイリビウムはほぼ半分の重量なのだ。手に持った瞬間から分かるレベルの軽さにはただただ驚くしかなかった。
しかもエクイリビウムはアイゼン用のコバがついているタイプになっている。コバ付きのモデルは堅牢さが必要になるため総じて重たいシューズが多い。それをこの軽さで実現していることは素晴らしいことだと思う。
エクイリビウムは雪上での使用も想定されていて幅広いフィールドに対応でき、尚且つ軽いということなのだ。ハイカットモデルを敬遠する人の多くが気にするのは重さだろう。それを払拭してくれるのがエクイリビウムだと言っていい。
久しぶりに登山に出かけて重たいシューズを履いたら疲れて楽しむことができなかった。そんな経験をした人も少なくはないだろう。そんな経験がある人にはぜひ試してもらいたい一足だと思う。
軽いものを使って楽をしているなんてことはなく、山を楽しむために軽くていいシューズを選ぶというのも一つの選択だと私は思う。
では、堅牢さはどうだろうか?堅牢さを犠牲にして軽くしているシューズは実際多くある。軽くていいけれどワンシーズンでダメになってしまうとなるとコスト的に中々に厳しいところだと思う。決して安い買い物ではない登山靴、できれば長く愛用できるように堅牢さも兼ね備えて欲しいと思うだろう。
その点においてエクイリビウムは優秀だ。軽さを十分にだしつつ、これだけしっかりした堅牢さを残しているシューズは珍しいのではないかと思う。
また、つま先や側面は十分な硬さがあり岩場でも安心して履いていることができる。岩にピンポイントで立ちこんでも力負けしない。岩稜が続く稜線歩きでは大きく疲労を軽減してくれるだろう。軽さと堅牢さをバランス良く合わせ持つ、それがエクイリビウムの最大の長所だと思う。
雪の上でも使用できるのは嬉しい(Photo Kisuke Goto)
先ほど際立つ長所を述べたのだが、実はもう一点エクイリビウムの面白いところがある。それは、踏み込むたびに推進力を感じられるということだ。
初めは単に歩きやすい靴だなとだけ思っていたのだが、長い林道を歩いている時にふと足が前に押し出されているような感覚を感じたのだ。
登山では、ランニングのように蹴り足になることはあまりない。置いた足にグッと体重を乗せて踏み足で前に進んでいく。前に出るというよりは、ひたすら立ちこむ作業を繰り返すというのが私のイメージだ。これは特に重量物を担ぐ歩荷の時に感じていることでもある。
ひたすらしっかり踏み込むことを意識して進んでいく、そんな中でほんの少し前に押し出してくれる感覚がエクイリビウムにはあった。
ダブルヒールコンストラクションを採用し踵のソールが90度ではなくわずかに削ぎ落とされていることで足置きから踏み出しが非常に滑らかになっているからだと思う。
また、足首部のフレキシブルな可動システムとなる3Dフレックスシステムも採用しており、それも相まって歩きやすさを感じる一つの要素になっていると感じる。
硬い靴でありがちな水平な道での歩きにくさが大幅に改善されていると感じられる。
日本には、林道のアプローチが非常に長い山も多くある。林道はトレイルランニングシューズ、登山道は登山靴と分けて登っている人も見かけるが、正直なところ林道の為だけに別のシューズを持っていくのは煩わしいと感じるだろう。
そうなると、トレイルランニングシューズで押し切るか、硬い登山靴で渋々林道を歩くかということになる。そんな煩わしさを感じさせない新しい登山靴の姿がエクイリビウムだと思う。
林道、登山道どちらにおいても快適な歩行を提供してくれる。それだけで登山に向かう気持ちもグッと高まると思う。
冒頭の話に戻るが、最近エクイリビウムを履いた登山者をたくさん見かける要因はそこにあるのではないかと感じる。やはりいいものは自然と多くの人に取り入れられていくのだと思う
大きなブロックのソールが新しい歩きを生み出している
これまでお話してきたように、スリーシーズンシューズとしてエクイリビウムはオールラウンドに活躍してくれる素晴らしいシューズであることは間違いない。だから多くの人に合うシューズと言えるだろう。
そんな中でも私がお勧めしたいのは、登山を始めたばかりの人や山にいく頻度が少ない人だ。
私は、山における業務においてスピードを求められればトレイルランニングシューズで重荷を背負うこともある。
重荷でローカットの柔らかいシューズを履く場合、機動力は上がるが足を捻るリスクも上がる。
ただ、それでも速く動いて行動しなければならない時がある。
そのためには足回りのトレーニングは欠かせなくなる。重荷を背負った中でも速く動き回れるのはある程度足回りの筋肉が補ってくれているからだ。
逆にいうと、足回りの筋肉がしっかりしていない状態では登山の負荷に足が負けてしまい、足がふらつく、着地が安定しないということに繋がってしまう。誰しもが最初から登山に適した体づくりができているわけではない。その足りない部分をシューズに補ってもらうというふうに考えると、エクイリビウムの軽量な点、程よい堅牢差がある点は非常に適していると感じる。
登山初心者の方に多い不整地での捻挫もハイカットの良さを活かし予防してくれるのではないだろうか。
まだ登山の足が出来上がっていない状態の登山初心者の人や、中々頻繁に登山にいくことができず足作りができない人にとってはエクイリビウムは心強い味方になってくれると思う。
足元から感じる安心感(Photo Kisuke Goto)
私はエクイリビウムはシューズ選びに迷ったらぜひ一度は試してもらいたい一足だと思っている。
重くてゴツいシューズで登山の楽しみを知る前に登山から離れてしまうことは本当にもったいないことだと思う。
だから私は、より良いシューズを手に取ってもらって登山の楽しみをより多くの人に体感してもらえたらと思う。
軽くなっても機能は最大限に引き出しているエクイリビウムがそれを叶えてくれる一足になってくれるはずだ。
これからの撮影での活躍を期待(Photo Kisuke Goto)
ランニングカメラマン
「里山からヒマラヤまで」国内外フィールドを問わず活動を行っている登山ガイド兼カメラマン。
山での機動力を活かした山岳撮影やトレイルランニングレースの撮影、撮影歩荷を行っている。
プライベートでは登山、クライミング、海外登山等、幅広く経験を積みながら山を楽しんでいる。
地元静岡ではリバーガイドとしても活動しており、山だけに限らず年間を通じて自然と関わり続けている。