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FOR OUR MOUNTAIN - スポルティバジャパン公式ブログ

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進化を追求するスポルティバの精神が凝縮したアルパインブーツ 〈AEQUILIBRIUM ST GTX®エクイリビウム ST GTX

RECOMMEND ITEM : AEQUILIBRIUM ST GTX®

はじめに

みなさま、いかがお過ごしでしょうか。1年延期となったオリンピックも気が付けば間も無く、開幕まで1ヶ月前となりました。「開催か中止か」いまだに何かハッキリしないままの状態でここまで来てしまいましたが、出場が決まっている選手それぞれも複雑な思いを抱きながら、ここまでの日々を過ごされていることと思います。

「この東京五輪を競技生活の最後の舞台に」と宣言したLA SPORTIVAアスリートの1人、野口啓代 選手もその1人。これまでの競技生活をスポルティバのクライミングシューズと共に歩んできた野口選手の声を映像に残そうとイタリアの本社から連絡があったのが年明けで、2021年3月にインタビューそして練習の様子を撮影し、1本の映像として纏めました。

Youtubeで視聴する 

企画:スポルティバジャパン株式会社
制作:株式会社丘と山製作所
撮影:株式会社丘と山製作所/滝山映像事務所合同会社/藤巻翔
翻訳:Beneroots, LLC.

その映像「THE STARTING LINE」は、LA SPORTIVAの公式YouTubeチャンネルにてご覧いただけます。野口選手の次の人生のステージにとっても、そしてスポーツクライミングにとっても「はじまりの瞬間」になると言うことで、タイトルを「THE STARTING LINE」とさせて頂きました。是非、この機会にご覧ください。

さて、ここ福島県の安達太良山エリアですが山頂近くの残雪もほとんどが消え、夏山の姿となりました。今回ご紹介する〈AEQUILIBRIUM ST GTX®(エクイリビウム ST GTX®)〉のフィールドテストも安達太良山そして吾妻山で行いました。岩場、泥地、砂礫、砂、土、渡渉、雪渓など様々なサーフェイスで丸2日歩きながら検証を行いました。

今回のフィールドテストは〈TRANGO TOWER GTX®〉の回にも登場いただいたTEAM SPORTIVAであり国際山岳ガイドの石坂博文(いしざか ひろふみ)さんと共に実施しました。約40リットルのリュックサックを背負い、実際の山行に近いシチュエーションで。雪渓では、アイゼンやチェーンスパイクなどを装着し歩行テストの実施を行なっています。


石坂 博文(いしざか ひろふみ)

国際ガイド連盟認定 国際山岳ガイド

日本山岳ガイド協会認定 山岳ガイド スキーガイド プロフェッショナルガイドとして夏はヨーロッパアルプスで登山やクライミングを、冬は国内を中心にスキー、アイスクライミングのガイドを行っている。海外でのガイドはヨーロッパを筆頭に南極、スピッツベルゲン、ウズベキスタン、キルギスタン、インドなど多方面におよぶ。

MOUNTAINブーツの新カテゴリー“AEQUILIBRIUM”シリーズ

まずは、LA SPORTIVAのマウンテンブーツの新シリーズ名 “AEQUILIBRIUM”ですが、あまり見慣れない単語ですよね。その元になっている英単語は“Equilibrium”。日本語での意味は、「平衡・均衡・バランス・釣り合い・・」です。現代登山において求められる「軽量」「快適」「登山技術」「耐久」「(見た目を含む)デザイン」といった要素をバランスよく配合してカタチにした製品を今後リリースしていくようです。

すでに、スポルティバジャパンのWEBサイトには、今回ご紹介する〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉と〈AEQUILIBRIUM LT GTX®〉が掲載されているので、すでにチェックされている方もいると思いますが、その違いは「ST=Synthetic upper(人工繊維)」モデルと「LT=Leather upper(天然皮革)」モデルの違いで、その他の構成は基本的に共有しています。足型への馴染みが良いレザーモデルか、日々のメンテナンスも楽で長く使ってもアッパー形状が一定の人工繊維か・・好みが別れるところでありますが、まずは先行して発売となったSTモデルを今回見ていきます。

また、これからの登山シーズンに向けてアルパインブーツの購入を検討される方々の中には、「〈TRANGO TOWER GTX®〉や〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉など、どう違うの?」と思った方もいらっしゃると思いますので、その辺りにも今回のブログ内で触れていきたいと思います。そのためにも、まずはこの〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉について詳しく解説していきます。

何が違うのかと問われれば、それは一日中履いたときの「疲労感」

これまでも色々なシューズを履いてきましたが、ここまで明確に他のモデルとの差を感じたのは、正直なところ初めてです。何がそこまで違うかと言えば、それは「疲労感」。40Lのリュックサックを背負って、比較的凹凸の多い登山道を1日歩けば、足裏(特に土踏まずの辺り)や、スネ、フクラハギの筋肉が夕方にはジーンと疲労を感じるものですが、それが無いのです。

〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を履くと「疲れない」と言ってしまうと語弊がありますが、そう言いたくなるくらい足にかかる負荷がこれまでのアルパインブーツと比べて少なく感じます。他のシューズとの「筋疲労」の差を数値的にあらわすのは今回の企画ではできませんが、これまで長年スポルティバのシューズで山を歩いてきた2人が2日間のフィールドテストを終えた時に一致したインプレッションがそれでした。

では何故そう感じるのか?それはLA SPORTIVAがこのシリーズに搭載した、これまでのシリーズには無い革新的なシューズ構造が大きく影響しています。スポルティバの開発チームが言う「よりスムーズな脚の回転を可能にした」と言うコトバが正にそれで、実際に〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を履いて歩いてみると、その1歩目から何かに押されて歩いているような感覚になると思います。

フィールドテストを行なっている時の2人が、現場で何度か口にした印象的なワードは「靴を履いていると言うよりは裸足で歩いているような感覚」そして「自転車で言うと電動アシストサイクルに乗っているような感覚」。電動アシストサイクルのようにバッテリーとモーターが今回シューズに搭載されたのではなく、当然自分の力で歩いているわけですが、そう思わせてしまうところに今回のAEQUILIBRIUMシリーズの革新技術が影響していると言えるでしょう。

トレイルランニングシューズのインプレッションを語っているのであれば「裸足のような」と言うキーワードが出てきても不思議ではないのですが、今回の対象はセミワンタッチ式のアイゼンも装着可能なアルパインブーツ。ミッドソールもアウトソールもしっかり厚みがあるので物理的に「裸足のような」と言う訳はないので、あくまでも人間が潜在的に身につけている自然な歩行感覚をシューズの構造で再現しているということになるのです。

AEQUILIBRIUMシリーズに搭載された新機能「2H:DOUBLE HEEL」のアクセル性能

ここまで書いてきた〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉と既存のアルパインブーツの「違い」は、本章でご紹介する「DOUBLE HEEL(ダブルヒール)」と呼ばれる新機能により説明がつきます。では何が ”ダブル” なのでしょうか。それは、この靴のヒール=カカトのデザインに込められた機能が2つあるということです。1つは歩行をアシストする機能、すなわちアクセル。もう1つが地面を捉えてグリップを効かせる機能、すなわちブレーキ。

では、その「アクセル&ブレーキ」=ダブル機能を持ったカカトの構造を図解もあわせて見ていきましょう。それにしてもインパクトのあるこの見た目。これだけラグのデッパリが大きいと、地面に引っかかって歩きにくくないのかなと心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、それは心配ご無用。一体これまでのシューズとは何が違うのか、さっそく見ていきましょう。

まずは、「アクセル」すなわち脚運びをアシストするための構造を図に示しました。アウトソールのカカト側の先端を大きく斜めにカットすることにより、歩行時にソールが地面に接するファーストコンタクトポイントが従来のシューズに比べて爪先寄りにシフトしていることがわかります。それにより従来に比べて素足のカカト直下に近いポイントで地面とコンタクトするため着地からその後の脚の回転にかけての安定感が増すことになります。

着地接点の「安定感」という意味では、AEQUILIBRIUMのダブルヒール構造にはもう一つポイントがあります。それは地面とコンタクトするポイントが従来のヒールに比べて広く、そして進行方向に対して垂直の直線的な面で受けようとしていることです。上写真を見比べるとわかりますが、従来のシューズではヒール形状に沿って円弧を描いていたのに対して、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉ではヒール先端を斜めに切り落とすことによって、それを実現しています。

その地面とのコンタクトポイント(図中破線囲み部)が、扉でいうところの蝶番(ヒンジ)のような役割を果たし、着地したヒールを軸に常に一定の方向へ回転させようとしてくれます。はじめて〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉のこのラグ形状を見た時「何でこのブロックだけ横長で切れ目もないんだろう・・?」と思ったのですが、その理由が実際に歩いてみて分かりました。

着地から蹴り出しまでカカトを中心に真っ直ぐ足を回転させることは、主に不整地を歩くトレイル歩きにおいてはメリットがあります。爪先の蹴り出し方向が左右にブレるほど、足裏やスネの筋肉がねじられたり、必要以上に引っ張られる(ご自宅で裸足になって真っ直ぐ歩くのと、爪先を左右に振りながら歩くのを比べてもらうと、足裏から甲そしてスネに至るまでの筋肉の張りの違いが実感できるかと思います)ため、それが累積していくと直接的な筋疲労の要因にもなります。実際の山行ではリュックサックの荷重が体重に加わるため、登山というアクティビティの特性を考えても、そのブレを最小限にとどめることの優位性は理解いただけると思います。

〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を履き込んでいくと分かってきたのは、土踏まずに近い突起状の2つの大きなラグ(図中破線囲み部)も大切な役割を担っていることです。先ほど説明したカカトに近いラグのヒンジ機能で足の回転方向を整えた直後に、その大きな爪のような2つのラグで地面を捉え方向性を確定させるためのフォローをします。

さらに、そのラグはソールの中央に向かってテーパーが取られているので、はじめに地面と接するのは両外の角で、岩にしても泥にしても捉える路面をソールの中央方向に寄せようとする力が働くのです。それにより、着地した時に一旦方向づけした進行軸をできるだけブラスことなく前足部の蹴り出へと受け渡しができるソールデザインになっています。

このようにDOUBLE HEELのアクセル機能は、カカトを基点とした脚の回転運動により、推進する平地やくだり坂においてその効果が顕著になります。「電動アシストサイクルに乗っているような感覚」と前述しましたが、カカトの荷重がかかる真下にヒールをスムースに転がすための仕組みが搭載され、ブレ補正も加わることで無駄なパワーロスを減らすことができるので、実質的にエネルギー効率の良い歩行になっています。そういった意味では、電動ではないもののシューズに”アシスト”されていると言っても良いかもしれません。

AEQUILIBRIUMシリーズに搭載された新機能「2H:DOUBLE HEEL」のブレーキ性能

すでに前章の後半で少し触れましたが、本章ではDOUBLE HEELのブレーキ機能、すなわち「グリップ性能」について見ていきましょう。これは、主にくだり坂でその効果を感じることができます。ヒールのラグ形状を見れば説明は不要なくらい、そのルックスだけでも路面をしっかりとらえそうな表情をしています。泥、砂、砂利、雪など軟らかく沈むようなサーフェイスに対しては、この大きなラグがスパイクのように地面に刺さります。

土踏まずに近い大きな2本の爪は一連の歩行動作における重心に近い位置にくるため、ズルッと滑りやすい路面であるほど、その効果を感じられます。地面に残ったDOUBLE HEELの足跡は何かに似ていませんか?そうです。山の中で見るシカやイノシシなどの足跡に似ていて、蹄(ひづめ)でハの字に踏ん張った感じもそっくり。この足跡を見た時に、2本の爪の前側が斜めにカットされたデザインになっている理由がピンときました。

雪上でのフィールドテストも行いました。アイゼンが必要無いような場所や雪のコンディションであれば、くだり坂でもしっかりとヒールのラグが雪面を捉えてくれます。DOUBLE HEELの形状を頭でイメージしながら、雪が降ったら安全な場所で爪が効く角度を探してみてください。また、雪の話題なのでキックステップについてもここで少し触れておきます。ソールのフレックスの違いから〈TRANGO TOWER GTX®〉ほど、ズサッと気持ちよく刺さりはしないものの、蹴り込むには必要十分な硬さはありました。

岩のような硬い路面に対するグリップも秀逸です。アウトソールには、ソールラバー材の最高峰ともいわれるブランドVibram®社のコンパウンド「Vibram® MONT」が採用されています。80年以上、登山家に支持され続けるVibram®社を代表する配合で、低温状況でのグリップ力の保持やアイゼンの装着に適した硬度があり、マウンテンブーツの多くに採用されています。登山靴のほか困難な環境において活動するプロから絶大な信頼をうけるスペシャルな配合で、高所作業用やモータースポーツなどのシューズにも使われています。

岩の上でのグリップの良さは、ラバーの硬度によるものだけではありません。まるでモトクロスバイクのタイヤのような多面的なヒールラグが、岩の凹凸と噛み合います。これまでのアルパインブーツと比べてもラグの立ち上がり面が大きいので、特にくだり坂の場合には履いている人の垂直荷重も加わりしっかりと捉えることができます。DOUBLE HEELをちょうど先ほどのシカの脚だと思って、どこにその蹄を置くと効きそうかイメージしながらステップを切るとよいでしょう。

ここまで読むと、ソールの機能が全てDOUBLE HEELに詰まっているように思われてしまうかもしれませんが、前足部も含めたラグの凸凹自体にも秘密が隠されています。それは、「IMPACT BRAKE SYSTEM」。Vibram®社とスポルティバが共同開発したラグの形状と配列の考え方で、上図のようにその配列や角度を緻密に計算することで、地面を捉えて蹴り出すトラクション性能と着地の際の衝撃吸収を、アウトソールのラグパターンによって同時に機能させています。この考え方自体は、LA SPORTIVAのシューズに共通して採用されていますが、その配列に関してはシューズの用途によって千差万別で、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉に関しては、ヒールは言うまでもなく前足部も1つ1つのブロックが大きく、ピッチも広くとられています。

ここで終わればラグの凹凸が比較的大きいというだけで終わるのですが、これまでの登山靴との違いを感じてもらうためには、もう少し「IMPACT BRAKE SYSTEM」のお話しをしなければなりません。実はこの後の章に出てくる「裸足のような」や「前脛骨筋の疲労軽減」にも関係します。ではまず上図1枚目を見てください。これまでのスポルティバの登山靴であれば、黒い部分が地面と接するラバー部分、黄/赤色の部分がクッション性を持たせた・・という具合にシューズを横から見た図で説明できたのですが、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉は少し違います。

〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉の外観から見えていた黒/黄/赤色の部分は、上の分解図で見ると(2)で示したように一体成形されたアウトソール膜のようになっています。そして(1)で示したクッション部分が従来のミッドソールの役割を果たすパーツになります。図をよく見ると(1)のクッションが(2)のラグの根元に入り込んでいるのがわかります。このような構成にすることによって、比重が大きいアウトソールのラバーゴム使用量を減らすことができ、シューズ全体の軽量化を図りながら、アウトソールのラグの突起1本1本の根元に対して衝撃吸収クッションを注入していることにもなります。

そこで、もう一度「IMPACT BRAKE SYSTEM」の話に戻りますが、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉に関しては、アウトソールのラグ形状によってBRAKE/IMPACTの機能を果たしているのではなく、”衝撃吸収材入りのラグ”1本1本が地面の凹凸に応じて沈み込み、そして反発するため、物理的には従来に比べてより高い次元での「IMPACT BRAKE SYSTEM」が足裏で稼働していることになります。

実際に〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を手にとる機会があれば、アウトソール側からラグの突起を押してみてください。これまでのアルパインブーツのソールには無い優しい沈み込み(前足部の中央あたりを押すと分かりやすいです)を感じることができます。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を履いて岩場を歩いてみると、“地面を捉える”という感覚に関しては、アプローチシューズとまではいかないものの、それを思わせる足裏感覚を感じることができるのは、このようなソール構造が大きく影響していると言えるでしょう。

「裸足のような」・・を実現するエルゴノミック・ラストと3D FLEX

冒頭にも記載した「靴を履いていると言うよりは裸足で歩いているような感覚」。ここまで分厚いソールが足裏にありながら、実際なぜそのように感じるのかについて、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉の機能と合わせて考えてみると、以下の2つが挙げられると思います。1つ目は「エルゴノミック・ラスト」、2つ目は従来までの3D FLEX SYSTEMの進化版「3D FLEX SYSTEM EVO」。

「エルゴノミック・ラスト」。直訳すると=人間工学的な足型となりますが、簡単に言えばインソールの外周に当たる部分を人間の足の丸みに合わせ、ラウンド形状で仕上げています。概念的には上図1枚目の青線(ERGONOMIC SHAPE)で描かれた形状を見てください。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉のインソールを外してシューズの中に手を入れて触ってみるとそれが分かるかと思います。このラウンド形状は、アウトソールの爪先とカカト部分に内側をERGONOMIC SHAPEで成形したTPU(熱可塑性ポリウレタン)素材のシェルを取り付けることで構成されています。

この「エルゴノミック・ラスト」は、レース用のスキーブーツなどにも採用されている構造で、人の体重自動を足裏の感覚を経由してブーツやスキー板に伝え繊細なコントロール をするための構造です。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を購入された場合には、まずはインソールをそのまま使ってみてください。カスタムインソールによっては、カカトや土踏まずのアーチ補正のために樹脂パーツを使っているものもありますが、ものによってはこのラウンド形状と干渉してうまくフィットしなかったり、双方の機能が最大限発揮されない可能性があるので注意が必要です。

〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉のアウトソール爪先の先端部分にもCLIMBING ZONEが設けられていますが、この「エルゴノミック・ラスト」のおかげで、母指球から先の繊細なコントロールもこれまでのモデルに比べて操作しやすく感じます。

2つ目の「3D FLEX SYSTEM EVO」は、LA SPORTIVAの足首を覆う登山靴に共通して採用されてきた「3D FLEX SYSTEM」の進化バージョンです。概念としてはしっかりと足首をホールド/サポートしながらも、登山において必要な前後左右への足首の可動域をサポートしてくれるシステムです。進化したポイントの1つは、その可動部分が立体裁断により成形されることで、屈曲した時に元の形状に戻ろうとする力が強くなりました。そして2つ目は、その可動部分が周辺に比べて出っ張っているため、表面に耐摩耗性の高い素材を採用していることです。

今回の3D FLEX SYSTEM EVOへのアップデートにより、特に外反方向への動きがよくなり、よりアグレッシブにステップを切りやすくなりました。岩稜帯など、1歩1歩着地角度が異なるような場面では特に有効で、接地面の角度に合わせてアウトソール全面を置きにいける=「フラットフッティング」がしやすいので、当然ながらソールのグリップ性能を発揮するのに有効ですし、次の1歩の蹴り出しにおけるエネルギーロスを低減することができるため、長時間履けば履くほどその効果が発揮されます。

「フラットフッティング」がしやすいということは、アイゼンを装着して歩行する場面でも有効です。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉は保温材が入った冬靴ではないので厳冬期の雪山登山には適しませんが、ヒール部にはアイゼン装着用のコバもあり、厳冬期以外の雪渓・氷河歩きやミックスクライミングなどアイゼンも使用するようなテクニカルな登山にも対応します。

なお、冬用のアルパインブーツのように爪先のコバはついていませんので、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉に合わせてアイゼンを購入される場合には、セミワンタッチ式に対応した製品を選ぶ必要があります。ちなみに、フィールドテストにて使用したアイゼンは〈GRIVEL G12 NEW-MATIC〉。アイゼンは、シューズの形状によってジャストフィットしなかったりもしますが、このアイゼンは〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉にジャストフィットしましたのでご参考までに。

AEQUILIBRIUMシリーズの新機能は「前脛骨筋」の疲労軽減に効果あり

〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉に搭載された新機能を中心にご紹介してきましたが、「DOUBLE HEEL」、「エルゴノミック・ラスト」、「3D FLEX SYSTEM EVO」で実現しようとしていることの多くは、裸足で地面を歩く時には無意識にやっていることばかりで、靴という登山における大きなアドバンテージを得た代わりに妥協してきたポイントでもあります。それを現代の製造技術や人間工学に基づく研究成果によって取り戻そうとしている過程において、このAEQUILIBRIUMシリーズはイノベーションの種なのかもしれません。

そして〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉の新機能による身体への効果を総合的に考えると、間違いなく「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」の疲労軽減につながると言えるでしょう。長時間歩くとスネの当たりがジーンとしてきたり、場合によっては痛みを感じたりした経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、登山やトレイルランニングなどでも特にトラブルが起きやすい筋肉の1つでもあります。

前脛骨筋の大きな役割は大きく3つあります。1つ目は爪先を上にあげる=足首を動かす働きをしていて、歩行時につまずかないようにしています。凸凹が多いトレイル上では、アスファルトの舗装路に比べて比べ物にならないくらい酷使しているので疲労も蓄積していくのです。2つ目は、歩行動作におけるバランスをとる働きです。カカトから着地する瞬間に地面から受ける衝撃を前脛骨筋が吸収しています。前脛骨筋が疲労してくると、衝撃吸収ができなくなりバランスを崩しやすくなります。疲れてくると脚の踏ん張りが効かなくなってくる要因の一つがこれで、捻挫もこういう状態の時に起きやすくなります。

3つ目は、人が姿勢を保持するために必要な筋力=「抗重力筋」として働きです。抗重力筋には、頭の上から脊柱起立筋、腹筋、腸腰筋、大臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋、そして前脛骨筋があり、これらの筋肉が互いに連動してバランスをとりながら、人の姿勢が保たれています。このように前脛骨筋は比較的小さな筋肉ですが、人が立ったり歩いたりするために果たす役割は非常に大きいのです。ここまで見てきたAEQUILIBRIUMシリーズに搭載された新機能は、前脛骨筋への負荷を減らしサポートを行う効果が期待できるため、縦走やロングトレイルなど複数日・長時間歩くような活動においては、これまでのアルパインブーツと比べて特に大きな違いを感じることができるでしょう。

機能的で無駄が無く、軽量かつ耐摩耗性が高いST=Syntheticアッパー

ここまでは現在リリースされているAEQUILIBRIUMシリーズのアルパインブーツに共通するプラットフォームの話でもありましたが、本章では〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉独自となるアッパーのデザインについてみていきたいと思います。現在販売されているカラーは、MEN’Sサイズがブラック×イエロー、WOMEN’Sサイズ:〈AEQUILIBRIUM ST GTX® WOMAN(エクイリビウム ST GTX® ウーマン)〉がブラック×ハイビスカスの展開です。MEN’SとWOMEN’Sで使っている足型が違うのかという質問を受けますが、答えは「同じ」です。そのため、重なっている足サイズの方は、好きなカラーをお選び頂ければと思います。

製品名にも入っていますように、ライニングには最高レベルの防水透湿性を誇る「GORE-TEX® Performance Comfort」を採用しています。ブーツ内のムレを効果的に排出しながら、外からの雨や水の浸入を防ぎます。ぬかるみ、渡渉、雪渓、水たまりなど、天候は晴れていてもトレイル上には濡れる要因が色々とあるため、全天候に対応するGORE-TEX®ライニングは、すでにこのようなアルパインブーツを選ぶ際の前提条件になりつつあります。

アッパー素材として最も大きな面積を占めているのが、『HONEY-COMB GUARD™』。直訳すると『ハチの巣ガード』と呼ばれる耐摩耗性が高い軽量ファブリック素材を採用しています。この素材感、どこかで見たことがあるという方もいるかもしれませんが・・そうです。〈TRANGO TOWER GTX®〉にも採用されているアッパー素材です。シューズに限らず丈夫な布地で「コーデュラナイロン」という名称を聞いたことがあるかもしれません。それが通常のナイロンの7倍の強度と言われていていますが、HONEY-COMB GUARD™は、それ以上に耐久性が高いと言われています。表面の六角形パターンをよく見ると、ナイロン糸を立体的に編み込まれていますが、これも生地表面の耐摩耗性を高める機構のひとつになっています。

ソールとアッパーの境界部分は、そのHONEY-COMB GUARD™の上にTPU(熱可塑性ポリウレタン)素材の補強シールドが内側・外側に貼られていて、さらに強度を高めています。〈TRANGO TOWER GTX®〉はその素材を爪先までグルっと一回りしていますが、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉は5章でもご紹介した立体成形されたトウキャップが貼られていて、ルックス的にもこのシューズを印象付けるデザイン要素になっています。

爪先の周辺でもう1点。シューレースのスタート部分が、アッパー素材の下に潜り込んでいます。これは、クライミング時など岩肌と触れ合って摩耗する可能性が高いため、紐を保護する目的でそのような処理がされています。なおシューレースが真ん中で色が分かれているのはお気づきでしょうか。機能とはあまり関係ありませんが、見た目のデザインにも拘ったというLA SPORTIVAの遊び心ですね。

シューレースに関連して、シューレースフックについて触れておきましょう。足入れ部から3段は金属製のフックがついていますが、よく見ると一番下段のフックだけ紐をくわえ込む内側に突起が出ていて、ロックが掛かる仕組みになっています。その上の2段にはロック機構はなく、紐が自由に動きます。足首の屈曲部分の下で一旦ロックをかけて、足先方向はそれ以上紐が緩まないようにし、「3D FLEX SYSTEM EVO」から上は、足首の動きに合わせて紐も少し動くように設計されています。

なお、「3D FLEX SYSTEM EVO」を正しく機能させるためには、シューレースに関して1点だけ留意しなければならないポイントがあります。それは、一番上のフックまでしっかりと締めておくことです。登山者の中には靴紐の上部を緩めて歩いていたり、最上部のフックには靴紐も掛けずにその1段下で縛って歩いている人も見かけますが、最上段のシューレースフックまで連動して3D FLEX SYSTEMが機能しているため、靴紐を最後までしっかりと締めていなければ、せっかく搭載しているシステムの効果が発揮されないのです。

では最後に、ヒールゲイターに関して。足入れ部のカカト側の約5cmには、丈夫なHONEY-COMB GUARD™を使用せず、伸縮性が高い素材を採用しています。これにより脱ぎ履きがしやすいだけではなく、足入れ部にできる隙間を最小限にすることができるため、短パンやタイツでの登山(ロングパンツの裾で足入れ部が覆われないとき)の際にも小石などの侵入を防ぐことができます。また、その伸縮ファブリックの最上部あたりには、脱ぎ履きする際に引っ張りやすくするための取手が内蔵されていて、そのようなディテールからも細部に至るまでのユーザビリティに配慮した拘りを感じることができる一足です。

おわりに

LA SPORTIVAが“新カテゴリー”として市場投入してきた最初のアルパインブーツというだけあって、「軽量」「快適」「登山技術」「耐久」「デザイン」のいずれのポイントにおいても明確なコンセプトを感じとることができる、まさにタイトルの表題にした「進化を追求するスポルティバの精神が凝縮したアルパインブーツ」でした。

マウンテンカテゴリーの登山靴の購入検討の際に同価格帯で悩むとすれば、これまでのブログにてご紹介している〈TRANGO TOWER GTX®(¥44,800税別)〉か〈TRANGO TECH LEATHER GTX®(¥41,000税別)〉が候補に上がってくるでしょう。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®(¥43,000税別)〉がこれまでのシューズと異次元な部分が多いので、横並びで比較してコメントするのが非常に難しいのですが、一緒にフィールドテストを行った石坂さんのコメントも含め少し書き出しておきましょう。

まずは〈TRANGO TOWER GTX®〉と〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉ですが、これはどちらが良いかということではなく、使用するフィールドやグレードの根本が少し違うと考えた方がよいでしょう。〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉を「進化を追求するスポルティバの精神」と表現したのに対して、〈TRANGO TOWER GTX®〉を形容するならば「伝統を大切にするスポルティバ精神」とでもいうべきでしょうか。90年以上の歴史のあるLA SPORTIVAの正統な血筋の中で産まれたアルパインブーツ。車で例えるとレーシングカー的、マニュアルカー的。繊細さや緻密さ、正確さを求めるベテランクライマー向けのシューズと言えるのではないでしょうか。例えば、雪面の上りでキックステップ(アイゼンあっても無くても)をしながら登る際には、比較すると〈TRANGO TOWER GTX®〉のフレックスに軍配が上がる感じでした。

一方、〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉について。「トレイルランニングシューズ」や「アプローチシューズ」が素材や製造技術の進化により垣根を越えてクロスオーバーするようになってきてしまったこの時代にあって、スピードを求める昨今のアルピニストスタイルの潮流もとらえながらLA SPORTIVA的に「登山靴を再定義」したアウトプットがこのAEQUILIBRIUMシリーズなのでしょう。同じく車で例えれば、同じ車輪で進むとは言え運転自体の概念が異なる自動運転車的。テクニックやスピードを求めて新たな登山領域を探究するアルピニストから、昔のようには体力に自信がなくなったシニア世代、逆に過去を知らずAEQUILIBRIUMシリーズを登山靴のスタンダードだと考えることができるビギナー層の1足目のアルパインブーツとしてもよいでしょう。

そんな私も大学生時代から20年くらいの間、スズキ/ジムニーだけを4台乗り継いできたわけですが、1年ほど前にその伝統を破って「アイサイト(全車速追従機能付クルーズコントロール)」付きのスバル/フォレスターに乗り換えてからというもの、高速道路で前の車を自動で追従してくれる運転支援機能の疲労度の少なさにハマってしまい、もう元には戻れないという身体になってしまいました。このAEQUILIBRIUMシリーズもおそらく同じようなことになってくると思われますが、一度そちらの道に行ってしまうと元には戻れなくなると思いますし、嗜好やポリシーそして必要にかられてマニュアル車しか選択しない人も残ることと思います。

最後に〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉と〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉との比較になると、ソールのフレックスが柔らかいのは断然〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉。そのため、両者ともセミワンタッチアイゼンは装着可能なものの、夏山でもアイゼンを積極的に使う場面が今後あるようであれば、2000円(税別)の違いであれば、そこは迷わずに〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉でしょう。あとは、先ほどの〈TRANGO TOWER GTX®〉のくだりでも触れた、ルックスも含めての正統血筋を好むかどうかや、登山でも使うけど、キャンプや釣りでも使いたいとなると〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉のダブルヒール機能までは必要ないかな・・などと言った決め方でも良いと思います。

でもせっかくGORE-TEX®のメンブレンなのだから、厳冬期の雪山には行かないけどスノーシューハイクはしたい・・というのであれば足入れ部の高さ、スノシューのストラップのフィッティングも含めて考えても〈AEQUILIBRIUM ST GTX®〉が断然おすすめです。それでも「靴はやっぱり”レザー”でしょ」という方は、〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉にされても良いかと思いますが、実はAEQUILIBRIUMシリーズのレザーバージョン〈AEQUILIBRIUM LT GTX®(エクイリビウム LT GTX®)〉もすでに発売しています!・・ということで、深く考え始めると迷宮入りしそうですが、その迷いの時間は登山靴について真剣に向き合い深く探究するチャンスとして(迷いすぎて、次の冬が来てしまいませんように)有効にお過ごしください。

[ 次回予告 ]

次次回のFOR OUR MOUNTAIN vol.11は、トレイルランニングシューズの新商品〈KARACAL(カラカル)〉。以前のブログでご紹介している〈JACKAL〉の兄弟的な位置づけですが、履き心地は少し違いますね。トレイルも走るけど、普段のトレーニングで公園の中や舗装路も走るし、何なら普段履きもしてそれでスーパーでお買い物も・・というオールラウンドな使い方をする方におすすめの一足です。

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FOR OUR MOUNTAINWRITTER

写真:一瀬圭介

<LA SPORTIVA アンバサダー>
一瀬 圭介 Keisuke Ichinose

プロマウンテンアスリート・山岳カメラマン。アラスカなど極北地帯の雪上を数百キロ進む超長距離バイクパッキングレースを中心に、ファットバイクによる競技活動を行う。また、山岳カメラマンとして国内外のアウトドアフィールドにおける映像制作なども手がける。2020年より福島県二本松市岳温泉にて「丘と山製作所」を立ち上げ、磐梯・吾妻・安達太良山域にてアウトドアアクティビティに関する事業も展開する。カリマーインターナショナル / ラ・スポルティバ アンバサダー

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