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FOR OUR MOUNTAIN - スポルティバジャパン公式ブログ

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スポルティバのDNAを体現するトランゴシリーズの最高峰〈TRANGO TOWER GTX®

RECOMMEND ITEM : TRANGO TOWER GTX®

はじめに

みなさま、いかがお過ごしでしょうか。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に関しては、まだまだ収束と言える状態にはなく、感染防止対策を常に意識しながらの日々の中で、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていることと思います。一日でも早くこのような生活スタイルから抜け出したいところではありますが、まだ当分の間続くものと思われますので、この状況下で何ができるのかを考えながら、これからの日々過ごして行きたいと思います。

いつまでも立ち止まっているわけにもいかないため、新しい生活様式の中でアウトドアを楽しんでいただくための取り組みをいくつかスタートさせました。その一つに「里山トレイルの整備」があります。かつては使われていたトレイルも一度人が通らなくなってしまうと、たちまち雑草や灌木で覆われ、荒れ果ててしまいます。現在、土地の管理者に承諾を頂き、その荒れ放題のトレイルを使ってウォーキング、トレイルランニング、マウンテンバイクなどのアクティビティが行えるよう、隙間時間を縫って道の再生、そしてルート開発に取り組んでいます。今後、そのトレイルを使ってトレイルランニングのイベントなども開催したいと思っています。

そしてもう一つ。安達太良山の麓、岳温泉に拠点を置く自身の会社「丘と山製作所」にてLA SPORTIVA商品の取扱いを開始しました。これまでは、このブログやアウトドア雑誌などを通じて、写真やテキストでシューズの紹介を行ってきましたが、このような世の中だからこそFACE TO FACEでお話を聞きながら、一人一人にフィットするシューズをご案内していきたいと思っています。その場で販売できる種類や在庫数量は限定的ではありますが、サイズフィッテングやご相談、試し履きなどをメインに、スポルティバブランドを通じたコミュニケーションを図っていきたいと思います。まだ、準備段階ではありますが、次回以降のブログや丘と山製作所のFACEBOOKにて、順次これらの取り組みに関しても、情報をお伝えしていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。

履いた瞬間に不安を拭い去り、勇気と力を与えてくれる心強いパートナー

さて、今回で第4回となるFOR OUR MOUNTAINは、初めてマウンテンカテゴリーのシューズをご紹介します。LA SPORTIVAの登山靴には、大きく3つのシリーズがあり、高所登山用の「ハイマウンテン(HIGH MOUNTAIN)」、冬靴を中心とした「ネパール(NEPAL)」、そして最も汎用的な登山靴を揃えた「トランゴ(TRANGO)」に分類されます。

その中でも「トランゴ(TRANGO)」は、軽量なアルパインブーツが各ブランドからまだ登場していない時代に、ソールは岩稜にも対応できる硬い素材のまま、アッパーに柔らかく耐久性のある軽量素材を採用することによって、足首のホールドと動きやすさを両立させた「動きやすい登山靴」という、新たな領域を切り開いたシリーズでもあります。

シリーズに共通するポイントを抜き出すと「硬く安定したソール×(柔らかく軽いアッパー+可動域が広い足首周り)」。この3つの特徴から、重い荷物を背負っての縦走や、時に登攀をともなう雪岩ミックスルートまで、幅広いマウンテニアリングに対応でき、ソールに使われるゴムや樹脂素材、そしてアッパーに使われる化学繊維の技術開発と共に、次々と新しい製品も生み出されてきています。

そのトランゴシリーズの中でも、最もベーシックでありかつ汎用性が高い1足を挙げるとすれば、間違いなく〈TRANGO TOWER GTX®(トランゴタワーGTX®)〉でしょう。今回は、登山靴の初回ということで、まずその〈TRANGO TOWER GTX®〉にフォーカスしたいと思います。LA SPORTIVAの本国イタリアでのキャッチコピーにも「トランゴシリーズを代表する機能美」と表現されていたものを目にしたことがありますが、それは90年以上に渡って登山靴を作り続けてきたLA SPORTIVAの技術と作り手のエネルギーが詰まったフラッグシップである、と言って過言ではありません。

今回は、〈TRANGO TOWER GTX®〉を愛用しているLA SPORTIVAアンバサダーで、国際山岳ガイドの石坂博文さん(この章末にプロフィールがあります)と、このシューズをテーマにお話を伺いました。その会話の中で、〈TRANGO TOWER GTX®〉を形容するのに多く登場した言葉は「オールマイティ」や「オールラウンド」。それは、尖った機能や用途に偏っていないので、この1足で春から秋の3シーズン登山は大抵こなせてしまうという意味合いで、チャート表の中に落とし込むと十字の中心に配置されるような”超バランス型”のプロダクトとも言えます。

国際山岳ガイドという職業柄、様々な登山経験レベルのお客さまを、国内外の様々なフィールドにお連れする石坂さんは、〈TRANGO TOWER GTX®〉はクライミングから数日に渡る縦走にまで幅広く使え、これから本格的に登山を始める人から登山経験値が高いエキスパートの方まで分け隔てなくお薦めできるシューズだと言います。今後、色々な登山靴を用途に応じて履き分けて行くにしても、頭の中で「〈TRANGO TOWER GTX®〉より●●●なシューズ」と、数ある登山靴の基準値になり得るニュートラルな存在であるので、まずは〈TRANGO TOWER GTX®〉を自由に操れるまで履きこなして欲しいとも話してくださいました。

そして、最後に石坂さんにとっての〈TRANGO TOWER GTX®〉とは?の問いには「履いた瞬間に不安を拭い去り、勇気と力を与えてくれる心強いパートナー」というコメントをいただき、その「不安」について更に尋ねたところ、それは「何かに気が散って目に前の活動に集中できない状況」であるとのことでした。靴に足を通して紐を締めあげていった時に足と靴が一体となるようなフィット感が大切で、履いていることを意識せずに一日を過ごせるパートナーがこの〈TRANGO TOWER GTX®〉であるというコメントも印象的でした。

では、なぜ〈TRANGO TOWER GTX®〉は、山岳のエキスパートにそうまで言わせる登山靴なのか。石坂さんが語ってくれたポイントを含め、この後の章で詳しく解説していきます。


石坂 博文(いしざか ひろふみ)

国際ガイド連盟認定 国際山岳ガイド

日本山岳ガイド協会認定 山岳ガイド スキーガイド
プロフェッショナルガイドとして夏はヨーロッパアルプスで登山やクライミングを、冬は国内を中心にスキー、アイスクライミングのガイドを行っている。海外でのガイドはヨーロッパを筆頭に南極、スピッツベルゲン、ウズベキスタン、キルギスタン、インドなど多方面におよぶ。

〈TRANGO S EVO GTX®〉から進化した「耐久性・軽量性・防水性・歩行サポート機能」

まず〈TRANGO TOWER GTX®〉をご紹介する上で避けて通れないのが、“岩場に強いライトアルパインブーツ”として2005年に登場し、絶大な人気を博したマウンテニアリングシューズ〈TRANGO S EVO GTX®(トランゴ S エボ GTX®)〉です。トレッキングブーツ並みの軽快な歩行性能と、急傾斜の岩稜帯にも対応するクライミング性能を両立させたブーツとして、新たなカテゴリーを開拓したLA SPORTIVAのベストセラーにノミネートするシューズでしょう。

そして〈TRANGO S EVO GTX®〉の誕生から12年後の2017年、LA SPORTIVAが伝承する職人技と最先端の素材開発により、この〈TRANGO TOWER GTX®〉がリリースされます。その際に「前作から耐久性・軽量性・防水性・歩行サポート機能のすべてをバージョンアップさせた」と開発者が語っているように、“トランゴシリーズの最高峰”とされる新時代のフラッグシップシューズが誕生したことになります。

〈TRANGO TOWER GTX®〉の特徴は、冒頭で記載したトランゴシリーズの特徴そのものです。「硬く安定したソール×(柔らかく軽いアッパー+可動域が広い足首周り)」により、重い荷物を背負ってのテント泊縦走や、時に登攀をともなう雪岩ミックスルートまで、幅広いマウンテニアリングに対応できるポテンシャルがあります。アイゼンを装着することができる必要十分なソールの硬さもあるので、これから徐々に本格的な登山を初めてみたいという方には、春の残雪期にアイゼンを使用した雪上歩きのデビューも見据えて、是非お薦めしたいモデルです。

セミワンタッチ式のアイゼンが取り付けられる構造になっていることもあり、「雪山でも使えますか?」と聞かれることがありますが、それは季節(=外気温)によります。〈TRANGO TOWER GTX®〉は保温材入りのいわゆる「冬靴」ではないので、厳冬期の雪山登山には向きません・・と言うか寒くて耐えられません。基本的には春から秋の3シーズン対応のシューズとして考えていただき、初冬の雪の降り始めや、低山での雪上ハイク、春の残雪期の雪渓歩きなどでアイゼン装着の場面があると考えて頂ければと思います。

国際山岳ガイドの石坂さんのコメントにも「日本の山であれば、3シーズン通してほぼすべての山岳フィールドに対応する登山靴」とありました。更に突っ込んで〈TRANGO TOWER GTX®〉を使用する主な山域をお聞きしたところ、海外では「マッターホルン・アイガー・ラメージュ・ワイスホルン」、国内では「剱岳(源治郎尾根、八ツ峰、チンネ等)・穂高(前穂高北尾根、北穂高東稜、滝谷等)・北岳(バットレス等)」とのこと。やはり岩や雪氷歩きがあるルートで特に活躍するとのことです。

少し脱線しますが・・〈TRANGO TOWER GTX®〉を履き慣れた方が冬山でも使えるシューズとして、ウインターバージョンの〈TRANGO TOWER EXTREME GTX®(トランゴタワーエクストリームGTX®〉というシューズがあるのをご存知でしょうか。ライニングには『GORE-TEX®デュラサーモ』を採用し、足入れ部分をショートゲイター仕様にするなど、〈TRANGO TOWER GTX®〉のデザインをプラットフォームにして保温力を高めたモデルです。前コバもあるので、ワンタッチタイプのアイゼンの装着が可能。保温力の目安としては、一泊程度の雪山を小屋泊まりで楽しむレベルです。それ以上の過酷な雪山に入るのであれば、〈NEPAL CUBE GTX®〉または〈NEPAL EVO GTX®〉をチェックしてみてください。

GORE-TEX®の防水透湿性を発揮させるための耐久性が高いアッパーデザイン

では〈TRANGO TOWER GTX®〉の機能に関して詳しく見ていきましょう。まずはアッパーに関して解説していきます。アッパー素材を構成するナイロン糸は、オフィスなどの床のカーペットタイルなどにも使用される擦り切れ・ヘタリ・熱・摩擦に強い「ナイロン6,6」を使用。特に岩や草木との干渉が生じやすい甲や、その両側面には『HONEY-COMB GUARD™』、直訳すると『ハチの巣ガード』と呼ばれる耐摩耗性が高い軽量ファブリック素材を採用しています。

〈TRANGO S EVO GTX®〉に採用されていた「コーデュラナイロン」が、通常のナイロンの7倍の強度と言われていますが、HONEY-COMB GUARD™はそれ以上の耐久性ということです。六角形のパターンは、よく見るとナイロン糸が立体的に編み込まれグラフィックとなっていて、生地表面の耐摩耗性を高める機構にもなっています。実際に生地に触ってみると分かりますが、柔軟でしなやかな素材なので屈曲部の足の動きも妨げません。〈TRANGO TOWER GTX®〉の軽量化と耐久性向上に大きく貢献しているマテリアルと言えます。

ソールとアッパーの接合部に貼られたランドラバーも、シューズの耐久性に対して大きく貢献しています。砂利道や岩稜、濡れた山道など、コンディションの悪いルートの長時間歩行を想定し、行動中にアッパーに穴が空いたり、破れたりということが無いよう、高強度ラバーで広い範囲の補強を施しています。特に爪先の先端部分は、岩稜でのクライミング時の擦れも想定し大きめにカバーされているので、実際にそのようなシーンで使用していても安心感があります。

また、ライニングには最高レベルの防水透湿性を誇る「GORE-TEX® Performance Comfort」を採用。ブーツ内のムレを効果的に排出しながら、外からの雨や水の浸入を防ぎます。ぬかるみ、渡渉、雪渓、水たまりなど、天候は晴れていてもトレイル上には濡れる要因が色々とあるため、全天候に対応するGORE-TEX®ライニングは、登山靴選びの前提になりつつあります。

ライニングにGORE-TEX®を使用した登山靴は多くなりましたが、その表面に穴が空けば水が直接内部に侵入し、せっかくの防水透湿性は発揮されません。シューズの防水性能を保ち続けるには表裏一体となるアッパー素材の耐久性が鍵を握ります。その点でも〈TRANGO TOWER GTX®〉のアッパー設計は抜かりなく、アイゼンとの接点も考慮されていたりと、様々な使用シーンを想定したデザインになっています。

GORE-TEX®の防水透湿性を最大限発揮させるには、「汚れたシューズを洗う」ことも大切になってきます。それは、防水透湿素材を使用したレインウエアも同じなのですが、そのあたりも含め今後のブログにて記載したいと思います。

テクニカルなルートを攻略するための『3D FLEX SYSTEM』

アッパーの素材もさることながら、〈TRANGO TOWER GTX®〉に限らず、LA SPORTIVAのハイカットブーツに共通するテクノロジーとしての『3D FLEX SYSTEM(3Dフレックスシステム)』をご紹介しない訳にはいきません。これは重い荷物を背負った際に大きな負担がかかりやすい足首をきっちりホールドしながらも、登山において必要な足首の可動域をサポートしてくれるシステムです。

足首の可動域が確保されることにより、登り・下り・トラバース時において、様々な地面の傾斜に対してのフラットフッティングがしやすくなるためソール全体が地面に接地し、スリップしにくくなります。一般的な重登山用レザーブーツと比べてソールの接地面が4~5倍に増えることにより、安全性を高めると共に長時間歩行時の疲労軽減にもつながります。

また、フラットフッティングがしやすいということは、アイゼンを着用しての歩行時にも、その効果を実感できます。アイゼンの爪全体を雪氷面に当てるフラットフッティングは、雪山や雪渓を安全に歩行する上でも重要な技術です。〈TRANGO TOWER GTX®〉は、足首の可動域の広さとソールのトーション(ねじれ剛性)の強さによりアイゼンの歯を雪壁に効かせやすく、雪上歩行におけるアドバンテージも高いデザインであると言えます。

では、その可動域を確保する仕組みをもう少し詳しくご紹介します。赤の線で囲んだエリアに前後左右のあらゆる方向に柔軟に伸縮する素材が使用されています。さらにその上部=最上部のシューレースフック(金属でできた靴紐を引っ掛けるパーツ)が付けられた部材を踵方向に辿っていくと、アキレス腱の上で1点につながり足首が3次元方向に可動するための支点が作られています。これをLA SPORTIVAでは『マルチダイレクションヒンジ』と呼び、足首のホールド感や安定感を損なわずに可動域を確保するという、仕組みを成り立たせています。

足首の可動域が高い分ストレスがかかる足入れ部の周りには柔らかいクッションで覆い、そのカッティング形状も含めて木目細かい履き心地に対する追求がカタチとなって表現されているのが分かります。タン上部の両サイドは伸縮性のあるネオプレン素材で、本体と繋がっていてシューズ内に異物が侵入するのを防ぐ構造になっています。

その『3D FLEX SYSTEM』を正しく機能させるためには、1点だけ留意しなければならないポイントがあります。それは、一番上のフックまでしっかりと靴紐を締めておくことです。登山者の中には靴紐の上部を緩めて歩いていたり、上部のフックには靴紐も掛けずに歩いている人も見かけますが、先ほどの『マルチダイレクションヒンジ』の説明でお分かりの通り、最上段のシューレースフックまで連動して『3D FLEX SYSTEM』が機能しているため、靴紐を最後までしっかりと締めていなければ効果は発揮されません。

ちなみに、そのシューレースフックも、よく見ると形状が2種類あります。足首の屈曲部にある一番下のフックは、靴紐を通してテンションをかけると一旦ロックされ、この中間地点でしっかりと靴紐を締めることができる構造になっています。その上の2段は、逆にロックが掛からないようなフックになっていて、『3D FLEX SYSTEM』による前後左右への足首の倒れこみに合わせて、シューレースもあえて動く仕組みになっています。

「歩く」という動作において、足首は1歩踏み出すたびに曲がる部分であり、そこに違和感があったり痛みを生じてしまっては、その他の行為に集中できません。足首を安定させるという観点ではブーツ形状の靴を履くことのメリットが高い反面、足首を覆うということは物理的に足首に負荷を与え、人体の自由な動きを奪うことにもなっています。そういった意味で、登山靴選びの際にはソールの硬さやパターンなどに加え、是非足首周りのデザインにも注目して頂ければと思います。

LA SPORTIVAのハイカットブーツが長年に渡って支持されているのは、そのような機能を追求していった結果生まれた数々の機能美がシューズデザインに宿っているからだと思います。『3D FLEX SYSTEM』のような考え方は、今では様々なブランドのシューズにも適用されていますが、LA SPORTIVAが特許を取得したのが2002年。逆算すれば、1900年代から既に設計が始まっていたことになります。ちなみに写真に写っているシューズが、前章でご紹介した〈TRANGO S EVO GTX®〉の前作モデル〈TRANGO S〉。トランゴシリーズのファーストモデルでもあります。

山を歩き、岩を登るという目的のために考え抜かれたアウトソール

では、続いてソールに関する話題に移ります。アウトソールは、ソールラバー材の最高峰ともいわれるブランドVibram®社の技術を用いています。さまざまな路面コンディションにおいて優れたグリップ力を発揮する独自の『Vibram® LA SPORTIVA CUBE』を開発し、この〈TRANGO TOWER GTX®〉にも採用しています。

ソールラバーの先端部分には「クライミングゾーン」を配置。爪先から母指球にかけての荷重ポイントを面で捉えることにより、ホールドが少ない岩やクサリ場などでの立ち込みをサポートし、岩場を登攀する際のグリップ性と安定感を高めています。

ラグ(アウトソールの凹凸)の形状と配列は、Vibram®社とスポルティバが共同開発した『IMPACT BRAKE SYSTEM(インパクトブレーキシステム)』と呼ばれているラグパターンの考え方を採用。ラグのパターンとラバーの粘性を利用して、下り坂でスピードをコントロールするブレーキ性能と、上り坂で確実に地面を捉えて蹴り出すトラクション性能、そして着地の際の衝撃吸収までも同時に行うという、まさに“システム”と呼べる仕組みが足裏で稼働しています。

Vibram®社とのアウトソールの共同開発の成果は、登山靴に限らずLA SPORTIVAシューズのイノベーションの歴史にも寄り添って進化し続けてきました。トレイルの表面は数えきれないパターンがあり、さらに雨で濡れれば状況が変わり、雪で覆われ、それが凍ることもあります。そのような変化に1枚のアウトソールが応えていくことは、永遠のテーマであると思いますが、またいつか新たなイノベーションを生み出して驚かせてくれる日を楽しみに待ちましょう。

山岳ガイドが “絶妙” と表現したのソールのフレックス

では、ミッドソールについても見ていきましょう。〈TRANGO TOWER GTX®〉は、これまでの回で紹介してきたトレイルランニングシューズやアプローチシューズに比べ、重い荷物を背負っての長時間歩行や、岩場での登攀が想定されるため、それに応じた構造やクッション素材の弾力性、フリクション、そしてレイアウトが計算され、1つのソールとして形成されています。

〈TRANGO TOWER GTX®〉のソールを分解すると、このような構成になっています。

  • (1)TPU(熱可塑性ポリウレタン)素材のアイゼン装着用のコバ
  • (2)弾力性が低いPU(ポリウレタン)素材のミッドソール基盤
  • (3)弾力性が高く軽量なEVA(エチレンビニールアセテート)素材のクッション
  • (4)Vibram® LA SPORTIVA CUBEを採用したアウトソール

(1)はLA SPORTIVAのロゴが刻印された、写真の中の赤い樹脂パーツです。アイゼン側の樹脂パーツと噛み合わせるための凹形状のコバです。本格的な冬靴には、そのコバが爪先側にもついていて、ワンタッチアイゼンにも対応する構造になっていますが、〈TRANGO TOWER GTX®〉は踵部分にしかついていませんので、セミワンタッチタイプのみ装着が可能です。

(2)の黄色い部分はミッドソールの基盤で、アッパーとアウトソールを繋ぎ留めているパーツです。その素材自体にも弾力性があり、足裏を守るクッションの役割と登攀のための程良い硬さ=反発力を生み出す役割を担っています。国際山岳ガイドの石坂さんは〈TRANGO TOWER GTX®〉の特筆すべきアドバンテージポイントとして「ソールのフレックスが絶妙」であることを挙げられていました。クライミングシーンにおけるスメアリングのための反発力と、細かい岩のスタンスに立ち込む際の硬さを両立させるちょうど良い塩梅を突いているという点で ”絶妙” であるとのことでした。

(3)のグレーの素材は、主に土踏まず周辺と踵にかかる衝撃を吸収するクッションの役割を担っています。また、土踏まずエリアにこのクッションを挿入し、相対的に(2)の肉厚を薄くすることによって、ソールのフレックスの幅を調整しています。

では、石坂さんが ”絶妙” と豪語する〈TRANGO TOWER GTX®〉のソールのフリクションを、LA SPORTIVAの主要モデル(全4モデル)と同じ条件で比較して見ておきましょう。平坦な道を歩くだけであれば、ソールはある程度柔らかいほうが歩きやすい訳ですが、登山道の凸凹、岩場、そして傾斜地を安定して歩くには、ソールの柔らかさを犠牲にしてでも足裏や足首がこねくり回されない硬さが必要になります。

つま先から約5cmの位置で、ブロックをトレイル上の凸に見立て全体重をかけて踏み込んだ瞬間を捉えたイメージです。以前このブログでご紹介している〈TX 5 GTX®〉は、爪先だけで地面を捉えようとするとソール全体が円弧を描くようにグニャっと弓なりにたわみ、ふくらはぎの筋肉を使って体重を支えるイメージになります。足の筋力が強ければそれを脚の筋肉で反発させていくことができますが、そうでない場合には、このようなシーンが続くと脚全体への負担も高くなります。

続いて、トランゴシリーズの中でも軽量な〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉も、母指球から爪先にかけては柔らかくたわみますが、母指球から踵にかけてのソール全体に芯のある硬さを感じ、〈TX 5 GTX®〉に比べて明らかに強い反発力を感じます。一連の歩行動作の中では、この写真の次の踏み込みの瞬間にその効果を感じることができます。

続いて、3番目は〈TRANGO TOWER GTX®〉。同じトランゴシリーズではありますが、ひとつ前の〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉とは明らかにソール全体の硬さが異なります。母指球のあたりを支点としてジワーッと曲がる感じです。これが垂直方向への登攀移動であった場合には、踏み込む力を無駄にロスすることなく地面に伝えることができる感触が体感できます。また、自らの体重を足裏から足首にかけて支えることができるので、〈TX 5 GTX®〉などに比べてふくらはぎにかかる負荷も少なく感じます。

最後に〈NEPAL CUBE GTX®(写真は以前のモデルです)〉。感覚的には自分の体重だけではソールが一切たわんでいない感触で、小さな足場での立ち込みには良いのですが、トゥスプリング(母指球から爪先にかけてのソールの反り)が、ほぼ無いに等しいということも含め、長い距離を歩くという動作に関しては、〈TRANGO TECH LEATHER GTX®〉のほうがアドバンテージが高いことになります。

おわりに

最後にフィッティングに関して少し触れておきます。LA SPORTIVAのシューズを紹介していると「イタリアの靴は幅が細い(or 甲が低い)から、私の幅が広い足には合わないでしょ?」と言われることが度々あります。なぜか「イタリアの靴=幅が狭い(or 甲が低い)」という潜在的なイメージがあるようなのですが、少なくともLA SPORTIVAのシューズに関しては、他のブランドと比べて全般的に幅が狭いということはありません。

そのシューズが使用される用途によってタイトな足型で作られているモデルもありますが、足を通して頂ければ一概に幅が狭い訳ではないということが分かるかと思います。是非、試し履きなどをして実際に体感頂ければと思います。〈TRANGO TOWER GTX®〉に関しては、登攀だけでなく長時間におよぶ縦走時の快適性も考慮して作られているモデルのため、母指球のラインにある程度の余裕をもって作られているので、足幅が広めの方にもお薦めです。また、履いているうちに、アッパー素材自体が自分の足型に馴染んでくるので、徐々にフィット感も高まっていきます。

ちなみに、将来的にもそこまで本格的な岩稜の登攀はしないという方であれば、〈TRANGO TECH LEATHER GTX®(トランゴ テック レザー GTX®)〉もお薦めです。こちらのモデルはレザーアッパーで、特に前足部がシンプルな作りになっているため、足の当たりもやわらかく足型への馴染みが特に良いので、足幅が広くてフィットするシューズがなかなか見つからないという方にも試して頂きたい登山靴です。

さて、今回ご紹介した〈TRANGO TOWER GTX®〉、いかがでしたでしょうか。トランゴシリーズだけでもすぐに選びきれないほどの種類があり、WEBなどで情報を見れば見るほど、どれを買えば良いのか分からなくなってくると思います。シューズを探している目的が、まずは厳冬期の雪山登山ではなく、春・夏・秋の3シーズン中心の登山であること。そして、今すぐではなくても将来的に日本アルプスの岩場歩きもしてみたい!ということであれば、〈TRANGO TOWER GTX®〉を第一候補にして試されると良いかと思います。

本格的な登山靴はどれも剛性の高い作りになっているので、自分の足型に慣らすだけでも時間が必要で、すぐに本番で使いこなすことはできません。それに向けたトレーニングとして、まずはハイカットのマウンテンブーツで近くの低山からでも長く歩くこと、そしてトレイルの脇に岩があればその表面の凹凸に足を置いてみましょう。その次には濡れた石の上を歩いてみたり、冬になれば安全な雪原でアイゼンを装着して歩いてみたり・・色々なシーンを想定したトレーニングだけでも〈TRANGO TOWER GTX®〉と一緒にその過程を楽しめるかと思います。登山靴=パートナーと一緒に目標とする頂に立つには、何と言っても互いの信頼関係が必要なので、まずはこのブログを読んで相手を知るきっかけにして頂ければと思います。

[ 次回予告 ]

次回のFOR YOUR MOUNTAINは、トレイルランニングカテゴリーから、アウトソールを刷新してバージョンアップした〈LYCAN Ⅱ〉をご紹介いたします。アウトソールのグリップが向上したことにより、これからトレイルランニングを始めようかなと思っている方のファーストシューズとしても薦めのモデルです。また、ランニング用途以外にも低山登山やファストパッキング、ハイキングなどでも活躍してくれるクセが少なく汎用性の高い仕様になっているので、普段使いの1足として是非お試しください。

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FOR OUR MOUNTAINWRITTER

写真:一瀬圭介

<LA SPORTIVA アンバサダー>
一瀬 圭介 Keisuke Ichinose

プロマウンテンアスリート・山岳カメラマン。アラスカなど極北地帯の雪上を数百キロ進む超長距離バイクパッキングレースを中心に、ファットバイクによる競技活動を行う。また、山岳カメラマンとして国内外のアウトドアフィールドにおける映像制作なども手がける。2020年より福島県二本松市岳温泉にて「丘と山製作所」を立ち上げ、磐梯・吾妻・安達太良山域にてアウトドアアクティビティに関する事業も展開する。カリマーインターナショナル / ラ・スポルティバ アンバサダー

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