LA SPORTIVA JAPAN OFFICIAL BLOG
マウンテンアクティビティに挑む女性の姿を通して、厳しくも美しい山、その自然に向き合う飾らない素顔をリアルに描くシリーズ。スポルティバのシューズが足元から安心感と高揚感をもたらし、女性のトライを後押しする。
今回のマウンテンアクティビティはファストハイクに挑戦する。足さばきが快適な「プロディジオハイク」を履いて、秋の中央分水嶺トレイルをpediさん、やべゆきさんとともに歩いてきた。

霧ケ峰・美ヶ原中央分水嶺トレイルとは、長門牧場から霧ケ峰、八島湿原へ向かい、和田峠を越えて美ヶ原へと抜ける全長約38㎞のロングトレイルだ。広々と開けた地形も多く、颯爽と歩くにはもってこいのルート。
今回は少しショートカットし逆ルートの扉峠から歩きはじめる。笹原の稜線美と美しい湿原を満喫し、トレイルのルートからは少し逸れた「ヒュッテみさやま」でゴール。がんばった自分への褒美においしいスイーツが待っている。
ルートの魅力をいいとこ取りして最後の最後まで楽しみがあるコースを組み立てた。

スピーディーに野山を歩くのに適している「プロディジオハイク」をチョイス。つま先を反り上げたロッカー構造が、着地のたびに体を前へと押し出してくれる。地面を蹴るというよりは転がるように進む感覚。歩くことそのものが楽しくなる靴だ。
トレランシューズ並みに軽量なため、足運びも軽やかでクッション性も備える。なおかつ、つま先部分はラバーで保護されているため岩や木の根の衝撃からも守ってくれる強靭さもあり、山の地形を効率よく歩きたいファストハイクにはベストな一足だ。

車山肩の駐車場から車で20分ほど登り、扉峠の駐車場へ。車を駐車し扉峠登山口から、木々に囲まれた緩やかな登りのトレイルから始まる。
昨日降った雨により森はしっとりとしていた。
「ガスがかかった森もきれいだね」
「どんなトレイルが待っているのかな、楽しみだな」
一体、どんな旅になるだろう。口々に話す言葉に期待が込み上げてくる。

標高1,680mに位置する初秋の扉峠は、ぐっと気温が下がって肌寒い。けれども、ふたりは薄着だ。
「駆け歩くから、すぐに暑くなりそうだよね」
長い距離をリズムよく軽快に歩くファストハイクは、運動量が高い。はじめから薄着の方が、快適だろう。

早朝に濃く立ち込めていた霧が少しずつ晴れ、森のなかにも光が射した。光と霧の薄いヴェールがかかった幻想的な森のなかを、颯爽と駆け歩く彼女たちの姿もまた美しい。

「足がぐんぐん前に出しやすくて歩きやすい!」
靴が軽量なので、登り坂でも木の根を越えるときでもサッと足が上がる。

雨上がりの木段や木の根は滑りやすいが、「プロディジオハイク」なら信頼できる。ブロックパターンのアウトソールはフリクションが効き、安心して一歩を踏み出せる。

アッパーにはゴアテックスを採用しているため濡れにも強い。雨により登山道はぬかるみ、濡れた草木により足元は濡らされたが靴の中まで濡れる心配はないので心強い。ためらわずに踏み出し、軽やかに歩き続けられる。

森を抜けると笹原の草原が現れた。再び霧が濃く立ち込めはじめ辺りは真っ白だ。
「なにも見えないけど気持ちいいね~」
「こんなに気持ちいいと走りたくなっちゃうね!」
道しるべのようにすっと伸びるトレイルにつられて、自然と歩くリズムも速くなる。

最初のピークにたどり着いた。三峰山(みつみねやま)の山頂は、濃い霧にすっぽりと包まれている。
「わー……真っ白! なんにも見えないね~」
視界が晴れていれば絶景の稜線が見えたはずだが、それはまた次回の楽しみにとっておこう。

トレイルには所々に中央分水嶺トレイルの標識が立っていた。笹原のなかにぽつんと立った標識が、三峰山を越えた先は和田峠だということを伝えてくれる。

トレイルを一気に下る。ガスは一向に晴れないが、笹原だけの真っ白な景色のなかを走るのも、なんだか気持ちがよい。
「下り坂を一気に駆け降りるのって最高~!」
ふたりの笑顔と笑い声が、霧に包まれたトレイルに溶けていった。

大きな段差を下るときは、どうしても膝に衝撃がかかる。けれど、このシューズならミッドソールのクッションがしっかりと衝撃を吸収してくれる。ふんわりと着地できるから、膝にもやさしい。そのおかげで、テンポよく下っていけるのだ。

三峰山をすぎ、山を下ると一度道路と交わる。そこから再びトレイルへと復帰すると、濃かった霧はすっかり晴れて青空さえ覗かせた。
「ススキがきれい!」
「もうすっかり秋だね~」

鷲ヶ峰(わしがみね)までの道中、広葉樹林のトレイルには黄色い落ち葉の絨毯が広がっていた。軽快に踏みしめるたびに足元からは小気味よく秋の音色が鳴り響く。

和田峠から1.6㎞ほど登ってきたところで少し休憩。まだまだ先はあるので完全に腰を下ろさずスタンディングスタイルで水分補給をする。
「あとどれぐらいかな?」
「もう半分以上歩いてきたよね」
「あともう少しだ~!」
笑い合う声が風に乗って、山の斜面を駆け上がっていった。

少しずつ色づき始めた秋のトレイルを再び軽快に進む。ススキが風にそよぎ、陽が当たると暖かい。なんて気持ちがいいのだろう。

しばらく進むと目の前に現れたのは鷲ヶ峰だ。
「見えた! あれが鷲ヶ峰か~」
「うっすらと紅葉していて、きれいな山肌だね」
しかし山が見えたのもつかの間。またしてもガスが湧き始めてしまい、あっという間に景色を隠してしまった。

再びガスが立ち込めるなか、黄金色に染まった稜線をゆく。
「この稜線も開けていて気持ちがいいね~」
「景色はまた見えなくなってきちゃったね」
「鷲ヶ峰からの展望はいいらしいけれど、見えるかなぁ……」
たとえ景色が見えなくても、ふたりの足取りは軽いままだった。

景色が見えるかどうか、ドキドキしながらも鷲ヶ峰の山頂へと歩みを進める。すると、またしても山頂へさしかかるころにはガスが薄くなり始めたではないか。
「ガスが抜けた!」
雲の切れ間から青空も再び覗き、笑顔で鷲ヶ峰に登頂!

鷲ヶ峰の山頂を越えて少し先へ進むと、ついに待ち望んでいた絶景が見下ろせた。
「わぁ! きれい!」
眼下には橙色に染まった広大な湿原が広がっていた。その向こう側には秋の色彩に変化しつつある、たおやかな霧ケ峰の高原が見える。
この季節にしか見られない美しい色彩風景を前に、しばし立ち尽くすふたり。そうして再び歩みを進め、鷲ヶ峰を下ってゆく。

鷲ヶ峰を下りきって八島湿原へと降り立つと、トレイルを歩く魅力とはまた違う、美しい湿原の世界が広がっていた。
3つの池塘をもつ八島湿原は日本を代表する高層湿原で、国の天然記念物にも指定されている。植物の宝庫としても知られていて、年間約360種もの植物を見ることができる。

このカラフルな木の実はノブドウという野生のブドウの仲間だ。宝石のように色鮮やかで、この時期に見ることができる植物のひとつだ。

ここまで来たらファストハイクはもう終わり。木道をゆっくりと歩きながら湿原散策を楽しむ。長い行程をスピーディーに歩いたからこそ、日が暮れる前にここまでたどり着き、ゆっくり楽しむべきところで時間を費やすことができるのもファストハイクの魅力だ。

湿原をぐるっと散策し、ほとりに立つ「ヒュッテみさやま」までやってきた。クラシカルな佇まいがステキな山小屋だ。
旅の疲れを癒すべく、ゆっくり休憩していこう。

旅の相棒となってくれたプロディジオハイクを揃え、山小屋の中へおじゃまする。

木製を基調とした店内は暖かみがあり、可愛らしいしつらえにグッとくる。並べてある本のセレクトや、飾られている山の絵やイラスト、暖かみのある照明など、山好き女子にとって好ましいものがたくさん詰まった空間だ。つい、ゆっくりすごしたくなってしまう。

喫茶の時間にはおいしいコーヒーやスイーツ、カレーなどをいただくことができる。
ふたりがコーヒーとともに頼んだのは、ふわふわの厚切りトーストと手作りパウンドケーキ。
「あぁ、幸せ。最高のご褒美だ~」
「ここまでがんばって歩いてきた甲斐があったね!」
ふつうの登山よりも速く歩いたおかげで美ヶ原から八島湿原までのトレイルを1日で堪能し、ステキな山小屋でおいしいスイーツまで味わうことができた。
心もお腹も満たされて、幸せな山旅となった。
住所:長野県諏訪郡下諏訪町八島湿原10618
TEL:0266-75-2370
喫茶営業日:GW~10月末まで毎日営業(冬季は金・土・日の営業)
※臨時営業あり。詳しくはウェブサイトにて要確認を
営業時間:10:00~15:00

今回、ファストハイクに挑戦したpediさんとやべゆきさん。ふたりに“ファストハイク”をしてみた感想を聞いてみた。
Pediさん
「ファストハイクとして意識して歩いたことはなかったけれど、思い返してみれば、今回くらいの軽装で歩くときは、平坦なところや下りを走ったりしていた。
だから知らず知らずのうちに、ファストハイク的なことはしていたのかもしれない。
今回のルートは長いだけあって、変化があって本当におもしろかった。
樹林帯から始まって、濃いガスのなかを歩いて……。
それがふっと晴れた瞬間に、ぱっと景色が広がる。
あの広大な稜線のトレイルは、ほんとうに気持ちよかったなぁ。」
やべゆきさん
「私は、登山計画的に“早く歩かなきゃ”というときに、下りだけ走ることはよくあるかな。
登りはいつも通り、ゆっくりと。
でも、ファストハイクをしようと思って試したことは、私もなかった。
今回はファストハイクを前提に準備をしたから、装備も変わったと思う。
意識的に荷物を削って軽くしたし、防寒具も天候を見て取捨選択してきた。
軽さを意識すると、歩き方まで自然と変わるんだなって感じた。」
ふたりとも、プロディジオハイクを履いて登山したのも今回が初めてなので、その感想もじっくり聞いてみた。

「まず感じたのは、クッション性の良さ。下りで着地するときに、ふだんなら衝撃を緩和させるためになるべく静かに着地するように気を付けているけど、靴が衝撃を吸収してくれるから、そこまで意識しなくても大丈夫だったし、安心して速く駆け下りられるのが良かった!」

「最近はクッション性のないゼロドロップシューズを履くことが多かったので、クッションのある靴を履いてみて、歩き方が変わったと思う。靴が足を守ってくれるのでガツガツ歩けるし、着地のときも考えなくていいのですごくラク」
「あと、つま先が反り上がっているから、とくに下り坂のときは自然に足が出て、すごく走りやすくて。軽やかに走れたのも良かった!」

「靴紐の結び目をしまっておけるのもよかったな。しまっておくことで解けにくく、結び直したりしなくていいのがすごくラクだった。そのため靴紐を気にせずに歩くことができた」

「靴を脱ぎ履きしていくことで感じたのは、前後のタブをつまんで履くことで履きやすいところ。靴紐の上部だけ緩めてタブを持って履けば、気持ちいいぐらいにスポッと履ける。ニット部分の密着感があるので、あとは靴紐を仕上げに結ぶだけ、というのがラクでよかった」

「ふだん軽装で歩くときはトレイルランニングシューズのローカットシューズ を履くことが多いけど、それとの違いでまず感じたのは少しミッドカットみたいになっていて足首までフィットするところ。それがふつうのローカットシューズよりもサポートされている感覚があって安定感をもたらしているように思う」
「ふだんなら足首を捻ってしまうかな、とか、気を付けながら走ったりしていたけど、そこまで意識しなくとも下りも駆け下りることができていたかな」

「なによりよかったのがクッション性! 下りで足を付いたときにワンクッション挟んだ感覚があって足に衝撃がずんとこなかった。足への負担が軽かったのが本当によかった」

「今日みたいなぬかるんだ足元でとくに感じられたのは、ゴアテックスだから泥や水滴が付いても中まで浸みてこないところもよかった。汚れも落ちやすいので、そこもすごく魅力的!」

「カカトのフィット感もよかった! すごくフィットして、カカトがしっかり守られている感覚。靴の中で足が遊んだりもしなかったので私の足にはかなりフィットしていた」

プロディジオハイクのおかげで、ふたりとも充実したファストハイクを楽しめたようだ。次はどんな靴で、どんな山旅へ出かけてみよう?
新たな靴を手にしたら、山の世界はさらに広がっていくはずだ。

歩行時間:約7時間
総距離:約14㎞
公共交通機関を利用する場合は茅野駅から出発するバスで車山肩まで向かい、扉峠登山口まではタクシーで向かうことになるが、バスの本数が少ないため、タイムスケジュールは計画的に考えなければならない。最適な手段は車2台で行くこと。1台を車山肩の駐車場に停め、もう1台で扉峠登山口まで向かう。帰りは車山肩に停めた車で扉峠の車を回収しに行けばいい。駐車場はどちらも無料で停められる。
原稿:阿部 静
撮影:加戸 昭太郎

子どものころから親に連れられて山に入るなど、山は身近な存在だった。大学時代は星空観察好きで新月の夜に星を見に大台ヶ原へナイトハイクへ出かけていた。本格的な登山の開始はInstagramで見つけた九重山の紅葉を見に行きたいと思ったことがきっかけ。その後、山ですごす時間が好きになる。現在はハンモック泊やクライミングなどを中心に山遊びを楽しんでいる

地元の友人と「自然に触れたい」と御在所岳へ登ったのをきっかけに2019年から登山を開始。最近の山行は日帰り北アルプスが多いが、ヒマラヤでのロングトレッキングの経験もある。好きな山は間ノ岳。今後の目標は厳冬期のテント泊登山やバックカントリーに挑戦すること

編集者、ライター、エッセイスト。登山やアウトドア媒体を中心に編集・執筆活動を行なう。プライベートでは登山や沢登り、渓流釣り、バックカントリースキー、アイスクライミング、魚突き、シーカヤック、アドベンチャーレースなど、あらゆる外遊びを楽しんでいる。ライフワークは狩猟採集にまつわる取材活動と自身の暮らしや旅のなかでの実践。登山雑誌『PEAKS』にて「狩猟採集食道楽あべちゃん」を連載中。著書に『雪の家』(クリーク・アンド・リバー社)がある