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FOR OUR MOUNTAIN - スポルティバジャパン公式ブログ

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「アプローチ×トレイルランニング」のハイブリッドシューズ〈TX GUIDE〉

RECOMMEND ITEM : TX GUIDE

はじめに

みなさま、いかがお過ごしでしょうか。本来であれば、日本は今頃「東京2020オリンピック」の開催で賑わっていたところですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延の影響により一年の延期。スポーツクライミングを中心に、世界のLA SPORTIVAアスリートも来日し、目の前でそのパフォーマンスに触れられることを楽しみにしていたのですが、こればかりは致し方ありません。残り1年で新型コロナウイルス感染症の世界的な収束とはいかないかもしれませんが、新しい生活様式下であったとしても、「平和の祭典」が開催できるくらい明るい情勢になっていることを期待するばかりです。

昨年に引き続き、TOKYO2020に合わせて開催予定であった「LA SPORTIVA CLIMB TOKYO」も延期となってしまいました。昨年参加して楽しみにして頂いていた方々、そして昨年は参加できず「今年こそは!」と思っていらっしゃった方々にも残念な思いをさせてしまいましたが、まずは来年度の開催を期待して待ちましょう。あの豪華な世界のトップクライマーのパフォーマンスを目の前で見ることができることを願って。

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せっかくなので、少しここで、クライミングシューズの新製品もご紹介しておきましょう。今年は〈THEORY(セオリー)〉〈THEORY WOMAN(セオリーウーマン)〉が新たにリリースされました。現代のスポーツクライミングに対応した高機能コンペティションモデルです。LA SPORTIVAのR&D部門が、なんと「ゴリラのモノを掴む能力」と「猫の指先の感度」についての研究を行い、その分析結果を取り込んで屋内のクライミングホールド向けに開発したシューズであるということです。屋内ジムを中心にクライミングをされている方は、是非一度チェックしてみてください。

〈THEORY〉のスペシャルサイトも公開中です!

“TXシリーズ”の新機軸、「走れる」アプローチシューズ

さて、今回で第3回となるFOR OUR MOUNTAINでは、前回の〈TX 5 LOW GTX®〉〈TX 5 GTX®〉に続き、アプローチシューズの新製品〈TX GUIDE(TXガイド)〉をご紹介します。「アプローチシューズ」に関してはこちら、そしてLA SPORTIVAのアプローチシューズカテゴリー「TX(トラバースX)シリーズ」に関してはこちらに記載していますので、ご参照ください。

前回のブログにて〈TX 5 GTX®〉は、もはや“登山靴”であるということをお伝えしましたが、今回の〈TX GUIDE〉は、もはや“トレイルランニングシューズ”であると言えるくらい軽く(片足約350g)、しなやかな仕上がりになっています。〈TX GUIDE〉の開発に当たっての企画書に「トレイルランニングシューズ」というキーワードも含まれていたので、このブログを書きはじめる前に、ファストパッキングスタイルで様々な角度から50km超の距離を続けて履いてみました。

その様子は『RUN+TRAIL 別冊ファストパッキング2020』(2020年7月15日発売)の「吾妻・安達太良 火山駆け道」という企画で、16ページに渡り掲載頂いていますので、ご興味がありましたら是非ご覧ください。単にトレイルを走り続けるのであればトレイルランニングシューズを履くのですが、ファストパッキングにおいて様々な山遊びを織り交ぜながら進む山行には、このアプローチ×トレイルランニングのハイブリッド〈TX GUIDE〉がもってこいのシューズであろうと、今回の山旅のお供として迷わずこれを選択しました。

〈TX GUIDE〉を履く前の印象としては、シューズの横幅が少しタイトに見えましたが、実際に履いてみるとその外観イメージとは少し違いました。アッパーの素材や周囲を覆うランドラバーが、TX5シリーズやTX4シリーズよりも柔らかく、足入れしてみると見た目のタイトなイメージでは無いことが分かります。さらに数日履いているうちに足型にも馴染んでくるので、私自身、足幅が広く甲高の足ではありますが、4日間履き続けても局部的にストレスを感じることはありませんでした。

そして「走れる」アプローチシューズでありながら「岩稜帯や沢歩きでのグリップが良い!」というのが、この4日間の旅を終えて感じた〈TX GUIDE〉の印象です。それもそのはず、アウトソールはLA SPORTIVAの新たなVibram®ソールのパターンが採用されていて、これまでのアプローチシューズの中でも最も喰いつきが良い構成になっているからです。その辺りも含めて、次章よりこの〈TX GUIDE〉についてさらに掘り下げていきたいと思います。

山岳エキスパートに向けて設計されたテクニカルアプローチシューズ

「TXシリーズ」と言えば、LA SPORTIVAの登山・クライミング・トレイルランニングの靴作りにおける技術の結晶であることは、前回のブログでもお伝えしている通りですが、この〈TX GUIDE〉は、その中でも“より早く進む”ということに着目し、トレイルランニングシューズの要素を取り込んだアプローチシューズであると言っても過言ではありません。実際にアウトソールの先端には、ランニングシューズには無い「CLIMBING ZONE」があったり、シューレースもクライミングシューズのように爪先近くから細かく締め上げられるようになっていて、ルックスだけとってもハイブリッド感が漂っています。

製品名に「GUIDE」とうたわれているように、元々〈TX GUIDE〉の開発段階におけるターゲットは、ガイドをはじめとする山岳地域を職場とする人たち。険しい山岳環境において最高のパフォーマンスを求めるエキスパート向けの軽量かつ耐久性の高いテクニカルアプローチシューズとして開発が進められました。LA SPORTIVAの開発拠点がある北イタリアのドロミテ周辺は、見渡すと岩肌が剥き出しの山並みが続いていていますが、そのような岩稜帯での活動も視野に入れたソールの構成が大きな特徴となって製品に現れています。

だからと言って「山岳エキスパート専用のシューズ」ということではありません。そのような職種の人たちが日々活動する過酷な環境においてパフォーマンスを発揮することができるというポイントは、誰が履いてもアドバンテージに成り得るポイントでもあります。他のTXシリーズに比べて、より早く進むことを想定して作られているため、そのスピードを受け止めるためにクッション性が高く作られていることも特徴の一つ。足入れして少し歩いてみると、トレイルランニングシューズとまではいきませんが、これまでのアプローチシューズに比べてクッション性が高いことを足裏で実感できると思います。

TX GUIDEを作るために開発されたプラットフォーム

では、その高いクッション性や不整地での安定感がどのように引き出されているのか、〈TX GUIDE〉のミッドソール構造を詳しく見ながら解説していきます。ソールを分解すると、外観から見えないパーツを含め、上図のように大きく4つのパーツに分かれます。

  • (1)踵から爪先まで足裏全体をカバーするクッション性が高いEVA素材のミッドソール
  • (2)土踏まずから前足部を中心にカバーする安定性をもたらすEVA素材のミッドソール
  • (3)ねじれ防止と路面からの突き上げを防ぐTPU素材のプレート(シャンク)
  • (4)Vibram®ソールを使ったアウトソール

(1)(2)は同じEVA素材ですが、それぞれ硬さも異なり果たす役割も違います。特に(1)は踵にかかる衝撃吸収をおこなうためのクッション性を担い、(2)は着地の瞬間に前足部がブレるのを防ぐスタビライザーとしての役割を担っています。そして(3)は、TPU(熱可塑性ポリウレタン)のロックプレート。TPUはスマートフォンの保護ケースなどにもよく使われている樹脂素材で、衝撃を吸収するための適度な柔軟性がありながら、薄くても簡単に破損しない強度も持ち合わせています。そのため岩や根などの凹凸による突き上げから足を保護してくれると同時に、前足部の過度なねじれを抑制してくれます。また、クライミングなどの登攀時には、前足部にかけた荷重をそのプレートを通して爪先に伝える役割も果たし、爪先で岩に乗ったときのエッジング性能を引き上げます。

(4)のアウトソールに関しては、現在のLA SPORTIVAの全シューズラインアップを見渡しても、同じような仕様は見当たりません。上写真の[ 前足部から爪先=黒色部分 ]には「Vibram® IDROGRIP(ビブラム・イドログリップ)」、[ 土踏まずから踵=赤色部分 ]には「Vibram® MEGAGRIP(ビブラム・メガグリップ)」が使用されていて、2種類の素材で成形されたダブルコンパウンドソールになっています。メガグリップは前回のブログで紹介したTX 5 GTX®にも採用されていて、特に濡れた路面などでのグリップ性を発揮しながら耐久性も高いビブラム社の高機能コンパウンドです。

一方、前足部から爪先に採用されている「イドログリップ」という名称は聞き慣れないかもしれませんが、メガグリップと共にビブラム社が提供するグリップ力重視の2大コンパウンドの内の1つです。メガグリップも十分にグリップ力が高いのですが、イドログリップは特に水中や濡れた岩など、特に滑りやすいサーフェイスに対してのグリップ性能が秀逸です。フライフィッシング用の水中で使用する沢靴などにも採用されている素材で、「水」に対してパフォーマンスを発揮するコンパウンドの配合になっていることが特徴です。

纏めると〈TX GUIDE〉のアウトソールでは、アップヒルやクライミング時におけるグロップ性能が必要な前足部には、最もグリップ性能が高い「Vibram® IDROGRIP(ビブラム・イドログリップ)」を。ダウンヒルでのブレーキングと耐摩耗性を必要とするヒール部分には「Vibram® MEGAGRIP(ビブラム・メガグリップ)」を採用し、濡れた路面に強い2種類のコンパウンドを適材適所で使い分けることで、激しく高負荷な動きに対応することができるソールを形成しています。

さらに、ラグ(アウトソールの凹凸)の形状と配列は、Vibram®社とスポルティバが共同開発した「インパクトブレーキシステム」と呼ばれるパターンを採用し、地面を捉えて蹴り出すトラクション性能と着地の際の衝撃吸収を、アウトソールのラグパターンによって同時に機能させています。これは〈TX GUIDE〉だけに搭載されている機能ではなく、LA SPORTIVAのシューズに幅広く採用されているソールシステムです。

最後に〈TX GUIDE〉のソールがこれまでのTXシリーズと異なる点を、もう1つご紹介します。それはロッカー(側面方向から見たときの爪先のせり上がり)形状の違いです。上写真は、左がTXシリーズのソールを代表し〈TX 2〉、右が〈TX GUIDE〉です。補助線を加えた2枚目の写真を見ると〈TX 2〉に比べて〈TX GUIDE〉の方がロッカー形状のカーブが曲線的で、特に爪先の先端にかけてせり上がっていることが分かるかと思います。これはタイヤが転がる原理と同じで、この曲線のラウンド率が高いほど、重心が爪先方向に移った時に足がスムースに転がりやすく、フラットに近いものに比べ相対的にスピードが出やすくなります。

ランニングシューズを見てみると、このカーブの曲率はさらに大きく、前方に転がりやすくなっています。機会があれば、様々な用途のシューズのロッカー形状を比べてみてください(ちなみに昨今話題になっている厚底系のマラソンシューズの中には、このロッカー形状が1/4円に近いものもあります)。この〈TX GUIDE〉をブログの冒頭で「走れる」と形容しましたが、この爪先側のロッカー形状がランニングシューズに近づけて設計してあり、これまでのアプローチシューズに比べ、実際のフィールドでも足運びしやすいことが実感できます。このような転がりやすさに加え、岩に乗るようなクライミングの場面も想定して、ロッカー形状や使用素材を検討し作られたのが、この〈TX GUIDE〉の「アプローチ×トレイルランニング」のハイブリッドソールであると言えます。

シンプルで耐久性の高い軽量アッパー

続いてアッパーに関する特徴を見ていきましょう。初見でまず目につくのは、やはりシューレース部分でしょう。爪先に近いところから、左右非対称のシューレースホールが細かいピッチで配置されています。これにより、シューズに足を入れてから細かくフィット感を調整することができ、使用環境や場面に応じたアジャストがしやすくなっています。

アッパーは木目が細かく耐摩耗性に優れた単層メッシュをベースに、シューズ内側はマイクロファイバー、外側はシューレースホール周辺やタン部をTPU素材で補強。さらに爪先と踵の周りはPU-TECH Lite™により、軽量かつ耐久性が高いアッパーのプロテクトがされています。タンは適度なクッション性がある薄めの仕様で、足首に当たる内側はマイクロファイバーで覆われているため、屈曲部とのフィット感が高く快適です。また、アッパーとタンの接合部は伸縮性のある素材で繋がっていて、甲全体を包み込むようにフィットします。いずれも、以前のブログで紹介したトレイルランニングシューズ〈JACKAL〉のタンに近いイメージです。タンに空けられたシューレースホールは、左右2箇所についていて、活動中にタンがズレないように配慮された設計になっています。

シューレースやタンによるフィット感の良さに加えて、〈TX5 LOW GTX®〉のご紹介の際にも記載したLA SPORTIVAのクライミングシューズのレジェンド〈MYTHOS(ミトス)〉のシューレースシステムにより、カフ(足入れ部)のフィット感も高められています。この〈TX GUIDE〉では、最後(一番上)のシューレースホールから踵上部までつながる黄色い紐がそれに当たります。シューレースを最後まで締めると、その黄色い紐も同時に引っ張られ、足入れ部が両くるぶしの方向に寄せられることによって、カフ周辺のフィット感を高める仕組みです。それにより、足首とカフの間にできる隙間も物理的に少なくなるため、活動中に小石や枝なども侵入しにくくなります。

おわりに

最後にフィット感に関して少し触れておきます。ブログの冒頭でも、シューズを手に取り外見だけ見るとタイトに見えるということを伝えしましたが、〈TX GUIDE〉のフィッティング自体、シューズ内にピッタリと足を納めることによってパフォーマンスを引き出すことを想定して設計されています。そのため、足の形状やコンディションに応じて、細かく調整できるようにシューレースを細かいピッチでアジャストできるようになっているのです。私のLA SPORTIVAの通常サイズは41ですが、〈TX GUIDE〉も同じ41で何も問題ありませんでしたので、基本的にはサイズの上げ下げは必要ないかと思われます。

〈TX GUIDE〉のサンプルをドイツの展示会で初めて手に取った時、「これだったらトレイルランニングシューズでよいのではないか」と思った記憶がありますが、製品となってアウトドアフィールドで履き込んでみると、この大地を捉えるグリップ力は、LA SPORTIVAのラインアップを見渡しても今のところ代替えがきかないスペックであることは間違いありません。「岩を登るならクライミングシューズを、トレイルを走るならトレイルランニングシューズを履けばよい」と言ってしまえばそれまでですが、実際の山岳フィールドにシューズだけを何足も持ってはいけないのが現実です。コースタイムを考えながら早く進みたいときにスピードが出せるこのシューズは、不確実性が高く、バラエティーに富んだ「山」という職場環境を持つ自分にとって、重宝する仕事道具になることは間違いないでしょう。

[ 次回予告 ]

次回は、LA SPORTIVAの数ある登山靴のラインナップの中でも、直球ど真ん中勝負の代表格〈TRANGO TOWER GTX®(トランゴタワーGTX®)〉をご紹介する予定です。耐久性、軽量性、防水性、歩行サポート機能など、すべてにおいて評価が高く、数日に渡る縦走やテクニカルな登山まで対応する「この一足があれば」という登山靴です。次回以降、LA SPORTIVAのアンバサダーの方々のコメントも頂きながら掲載していきたいと考えていますので、お楽しみに。

それでは、また次回お会いしましょう。ありがとうございました。

RECOMMEND ITEM

写真:TX GUIDE

TX GUIDE
TXガイド

ULにも最適な軽量モデル

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FOR OUR MOUNTAINWRITTER

写真:一瀬圭介

<LA SPORTIVA アンバサダー>
一瀬 圭介 Keisuke Ichinose

プロマウンテンアスリート・山岳カメラマン。アラスカなど極北地帯の雪上を数百キロ進む超長距離バイクパッキングレースを中心に、ファットバイクによる競技活動を行う。また、山岳カメラマンとして国内外のアウトドアフィールドにおける映像制作なども手がける。2020年より福島県二本松市岳温泉にて「丘と山製作所」を立ち上げ、磐梯・吾妻・安達太良山域にてアウトドアアクティビティに関する事業も展開する。カリマーインターナショナル / ラ・スポルティバ アンバサダー

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